、貴女のお父様からよ。」




部屋で楽を奏でていた私の目の前に出された、一つの竹簡。

毎年、夏が来る前に送られてくる約束の手紙。



こんなことになったのは、もちろん私の所為でもある。




「ありがとうございます。」


「もう、は変わらないのね。貴女の方が位は上でしょう?」



声は呆れているのに、表情はどこか嬉しそうな彼女は、女官。

苑琳という、私とさほど変わらない、女官。


そして、私は・・・・




「貴女は、劉備様の娘なのだから。」




そう、私は一国の姫。姉もいた。けれども、皆、戦で死に逝った。

唯一生存している、劉備の娘が、私。




「いいの。私は私に違いはないし、たまたま生まれただけよ。」

「親子そろって、下手にでるのね・・・。流石、かしら?」



ふふ、と笑い合い、渡された竹簡の紐をとく。





ああ、懐かしい字。

会えないけれど、お父様は変わらないのね。









―。

さて、今年もこの時期がきたことを、喜んでいるだろうか?

今年で17になると思うと、早いものだ。

そんなに、一ついい贈り物をしようと思う。

ただし、彼はそちらには行けない。

代わりに、がこちらに来るといい。

この手紙を持って行った者と、共に居るだろう苑琳と一緒に。

では、が来るのを楽しみにしている。

                 劉備―











「・・・苑琳。出かける準備を。私は、持ってきてくれた使者に会っているから。」


「はい。準備が出来次第、お声をお掛けします。」









使者は、客間に居た。


「です。失礼してもよろしいですか?」



問えば、多少なり緊張したような声が返ってくる。

けれど拒否ではなかったので、そのまま入る。





「あら、珍しいお方が使者として来てくれたのですね。」




入った先にいたのは、いつもの伝令兵とかではなく、武人。

頭を垂らし、拱手しているため顔を確認することは出来なかったが。





「初めてお目に掛かります。私は、張翼と申します。

此度は、君主様と丞相に指名していただいたため、こちらに参りました」




「わかりました。そのように堅くならなくてもいいのですよ、張翼殿?

私は、ただの小娘と思われていいくらいですもの。顔を上げてください。」




張翼が来た理由は、私の護衛を兼ねてであろうことは予測できた。


「では、護衛をよろしくお願いしますね。そのうち苑琳が呼びに来ますので。」

「はい。」










もうじき彼女に会えるのだと、楽しみにして日常を過ごしていた。

会いに行って、一日だけは彼女といられると。












だけれど、それを簡単に崩された。



「おぉ、趙雲いいところに」


「殿。どうされましたか?」






「いや、毎年に会いに行ってもらっているが、今年は行かなくていいぞ。」






「え?」


「そういうことだから、頼む。では、失礼するよ。」








会いに行かなくてもいい。それはどういう意味か。



まさか、が来ないで欲しいと言ったのだろうか。

それとも婚約したとか・・・。



考えるだけ闇に落ちていく趙雲であった。




















「成都ってこんな温かいんですね。」


「そうですね。どちらかといえば温暖ですものね。」



「姫様、殿がお迎えに出られておりますが、降りられますか?」




馬車の外からの問いかけに、苑琳との会話を止め降りることを告げる。









「お父様!!お久しぶりです」


「も、相変わらずなようだな。まぁ、多少は女性らしくなったようだが」



「もう!これでも頑張ったのよ・・・?確かに、苑琳とかみたいに落ち着きはないけど・・・」





会って早々の談笑。


しかし外は危険だからと言われ、城に移動する。






「ねぇ、お父様。ここに来てから将が増えたんでしょう?

ほら、子竜とやりあった・・・姜維殿だったかしら?」





「うむ。今から孔明のところに行くから、そこで会えるだろう。」


「うふふ、楽しみ!」





は、ただ人と会うのが好きだった。


でもそれは簡単にはいかないため、我慢していたが、今日はいろんな人に会える。




それが嬉しかった。











このときばかりは、趙雲のことを忘れていた。


そして、趙雲は会える日に行かなくてもいいと言われ、部屋で腐れていた。



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