あまりにも貴女は悲しいことを言う その言葉に私がどれ程、傷付くのかを知らないから きっと残されてしまうのは、私だから 貴女はこの痛みを知らなくていい 知っていても思い出さなければいい 悲しいことを言われるのは 私だけでいい。 「ねぇ、私が帰れるとしたらどうする?」 ふとした時に貴女は、ぽつりとその質問をする。 そしてその度に私は答えられない。 殿が来たときも唐突だったように、答えたら、本当に唐突に消えてしまいそうで。 帰る。 その言葉が、私の気持ちを伝えさせないように、叶わぬようにと鍵をかけられているようで。 聞かれるたび不安になり、殿をこの腕に閉じ込めていたいと願う。 だから、帰るという言葉にひどく傷付く。 いつかは、帰ると分かっているのに。 「・・・・・ううん。やっぱり、いいや。だってまだ帰れないんだもんね。」 寂しげに笑って、空を見上げる。 違う。彼女は・・・涙が零れないようにしているだけ。 いつもと変わらぬのならば、変えて聞きたいことがある。 「何故、帰らないのです・・・・もう方法は、見つかったと聞いています」 私も帰って欲しくはない。 愛して、ずっと守れる限り守ってきた愛しい存在だから。 それでも、これほど元の世界を思っていて帰り方は分かるのに、 帰らない理由が分からなかった。 着た頃からずっと、帰りたいと言っていたのに。 「・・・・・・うん。そう、だね。帰れないんじゃなくて、帰らない、んだ。でも、帰れないのも本当。」 弱々しく、笑って私を見た殿は、迷った目をしている。 「どうしてです。」 「言ったよね、私の世界は戦いなんて無かったって。」 「ええ」 「私は・・・世界が変わったといえど、人を殺したの。罪を、犯したの。 なのに、向こうで平気な顔なんて、できない。その人を殺した事実を隠して生きる覚悟がない。 向こうで、否定されて、罪人と言われるのが怖いの。」 「それに・・・・この世界での約束と、心残りがあるの。いくつも。」 寂しげな笑みをして、座っていた石から降り、 カサリと、彼女が歩くたびに草は音を立てて足に纏わりつく。 「・・・・・・・・・・・・・・好きな人が、大切な人がいるの。友人も。」 「だから帰らないのですか。」 帰りたいのに、帰れない。 帰れるのに、帰らない。 ここの常識が、むこうでは非常識であり、 どちらにも大切な人がいるから、帰れない。 彼女は・・・―馴染みすぎた それと、好きな人とは、誰だ。 「うん。劉備にも約束したよ。蜀が天下を統べるのを手伝うって。関羽も、張飛も、諸葛亮にも。 阿斗君には、遊びを教えるって言ったし、星彩には私の世界のやり方で、髪を結う約束もある。 馬超や姜維にも、約束あるし。・・・・・・・・好きと言えず帰るかも決められない。」 「言えばいいじゃないか。」 「だめ。相手に傷を残すかもしれないでしょう。ならば、伝えずに私だけが想えばいい。」 もしも、その相手が私であるならば、打ち明けて欲しいと思う。 少なくとも帰るまでは愛していいのだから。 の腕を引き、腕に閉じ込める。 この腕の中の温もりが、あるうちは愛させてくれ。 「・・・・・私は・・・」 「ちょう、うん?」 「・・・・私は貴女が、愛しい。」 趙雲の言葉に、はビクリと反応した。 「だ、だめだよ・・・・・・私は、帰る人、だから。」 「それでも愛しい。私に可能性があるのなら、殿が帰るまで愛していたい。」 「・・・・・・・・・考えさせて。今は、まだ・・・・・・ごめんね。じゃあ。」 するりと、腕を抜けた貴女を、もうこの手に感じることは無かった。 あの後、は諸葛亮と劉備のもとに行き、これから起きる出来事を事細かに話し、 諸葛亮には他軍の動きや、策略を教え、残された約束を急いで果たして・・・・ 帰った。 彼女が生まれた世界に。 「そこまで、迷惑だったのか。それとも、傷を少なくしたかったのか・・・・聞くことすら叶わぬ、か。」 宿り木に戻る鳥を愛す止まり木 (愛しくとも、存在していい場所ではないの。だから、ごめんなさい。) 悲しくも鳥は哀歌を宿り木にて止まり木を想い歌った。 back