全て私の言葉でした。



「ねぇ子龍・・・また戦いが起きるんだね。」

「えぇ、どうかしましたか?」





ぽつりと零された言葉には、悲しみや虚しさが含まれている気がした。




「もう戦って傷つくキミを見るの、辛いよ・・・」






「・・・・ならば、別れましょうか。貴女が悲しいならば離れるのが一番だと思いますし・・」




「・・・・・・・・・そうだね。」






辛そうに笑ったのは、戦いに対して?別れに対して?私に対して?


ただ、貴女は笑って出て行った。

さようならと言った私に返事をして。











それから貴女と逢瀬を交わすことは無くなり、その代わりに貴女を目で追うことが増えた。




貴女は馬超殿や姜維殿のような将から、一兵卒までと話す機会が増えていて、

何故だか胸が苦しいと同時に腹立たしかった。




だから、たまたま会って話していたときに零れた。





「そういえば最近はいろんな男性に人気があるみたいですね。」と。




貴女は「趙雲様・・・そんなことないですよ。きっと別れたのを知った人たちが慰めようとしてるんでしょう。」と言う。




何を言っている?貴女を狙っている男性は多いと言うのに。







そして話す度に貴女の言葉には壁が出来ていく。

子龍から趙雲、そして趙雲様へと敬語に戻っていく。



「私と離れていろんな男性と話すのは楽しいですか?」不意に言ってしまった。






もう、なんでもないなんて隠せない。


知られてはいけない、ドロドロの感情を零してしまった。





私の言葉を聞いた貴女は少し目を見開いて、また笑った。




「そんな風に思われていたのですね・・・・・楽しいのは確かですよ、蜀の人は優しいので。」






どれだけ私の言葉に棘があっても貴女は笑って呑んでしまう。


何も無かったように。


少しくらいは怒ればいいのに、貴女はごめんなさいと謝る。






貴女が何をしたというのですか?

傷つけたのも、別れを告げたのも私だというのに。







「そうですか。」



「ええ、ただ今お慕いしている方には気持ちが伝わらないのは悲しいですけれどね。」





「慕う人が出来たなら、少し安心しました。」


「し、んぱい掛けたみたいで・・・ごめんなさい。」





何を困惑する?その必要はあるのだろうか?










「それでは、失礼します。」




その場を後にする私に、貴女は会釈をした。





自分の部屋で考えてみる。

貴女のことを。





今、思えば・・・あなたは答えるだけだった。





「好き」も「付き合いましょう」も「さよなら」も何もかも。





全て私の言葉でした。





受身でいるならば、もう一度望めば手に入りますか?

その慕っている人が誰かは知らないけれど、是と答えてくれますか?







「ッ!!」




急いで貴女の部屋に行けば、女官と共に夕食を準備する貴女。



「まぁ、趙雲様。お急ぎのお話しですか?そうでないなら共に食事でも取りながら…」





また微笑んでくれる。

ただこのという女性が愛しいのだ。






別れたくなどなかった、けれど辛い思いをさせたくないからと、いきなり別れた。



すべて私が言って、私の責任。




「・・・いいのですか?私などが・・・」


「構いませんよ。」







私を席に促した後、女官に酒だけ頼み帰るように言っていた。










「さてと、一体どうされました?」


「が、誰かを慕っているのは承知していますが、もう一度付き合ってもらえませんか?」


「・・・・・喜んで。」








少し迷って言うということは、これも上官からの言葉ととっているということ。







そうじゃないんです、私は・・・






「違いますッ!これは上官としての言葉ではありません。

一人の男として、に言っているのです。答えが是でも否でもいいんですッ。

だから、どうかただの趙子龍に対しての返事を教えてください。」






「私なんかが申し上げれることではありませんが・・・・

私は誰かと付き合うのは、ある意味仕事として見ていました。

しかし、趙雲様と付き合ったときは楽しかったです。

別れた後も・・・ずっとお慕いしておりました。趙・・・子龍。」






「それは是でとっていいんですよね?」



「はい。」




何もかも全ては私の言葉でした。


だから、貴女には愛しい気持ちを伝える言葉ばかりを差し上げたいと思います。


二度と離れるような言葉を口にしないように。









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