扉、入り口の方で音がした。

「ネズミ・・・?」

そう、普段出入りするのはネズミかイヌカシくらい。

だからきっとどちらかなんだろうな。



「あ・・・えっと・・・」

「・・・誰?」



でも、その声はどちらの声でもなくて、ただやけに感情をもっていた。

「僕は紫苑って言うんだ。ちょっとネズミを探してて・・・」


「し、おん・・・・君が紫苑なんだ。私は。ネズミは来てないなぁ・・・」



多分、きっと・・・情報を得るために、同じ情報屋をしているイヌカシのところに行ってる。

私みたいに足とか怪我をしてなくて、仕事の速いイヌカシのところに。



「そっか、ありがと。」

「ううん、ねぇ紫苑?きっとイヌカシのとこだと思うの、それで、行くなら連れてって欲しいの」



同業者として、いい気はしないだろうから・・・

ううん、きっとネズミは紫苑の為に動いてるから。

それを目の前にして、一人で立っていられるか分からないんだ。




「うん、じゃあ行こう。」


何も疑うことなく、了解を述べる。

ここ、西ブロックではありえない程に無知。

きっと頭はよかったんだろうけれど、こういう騙したりは得意としていないらしい。



「さん?」


差し伸べられた手を見て悟った。

ああ、この子は白いんだ。

外見とかじゃなくて、心がキレイすぎてて・・・何か人が惹かれるものを持ってる。


 負 け て る 


私が紫苑に敵いっこないのは理解したよ。ネズミ、君は紫苑を凄く大切にしてるのがわかった。
























紫苑に肩をかりて、イヌカシのいる廃墟に入ろうとした

その時、紫苑に白い塊・・・すでに黒ずんでいるものが飛びついた。

「うわっ、舐めるなって・・・!」

どうやらそれは、普段イヌカシのところで働いている紫苑に懐いたイヌカシの犬らしい。


「紫苑、先行くね?」

「あ、うん。」




コツリ、コツリと音を立てて、私はこの廃墟に住まう者の元へと行く。


『矯正・・・・・・・・・・・・・・ない!危険・・・・・る!』

『・・・・・・・・ぞ?』



聞こえるのは声を荒げるイヌカシと落ち着いたネズミの声。


ほら、やっぱり居た。

そっと近づいて、入り口の近くに身を潜めた。



矯正施設を調べる?

この前、bUで攫われたとかいう"さふ"という子の関係?

あ、違う。きっと紫苑が絡んでいるんだ、bUから来た紫苑が。

『何でもいいから情報が欲しい。』




思いで、仕事でも、何においても勝てない私に出来るのは"ネズミのタメに矯正施設のジョウホウをエる"こと。

そして"死を迎えること"それが私の解放される術。



「矯正施設、調べるの?」

コツリと音を鳴らし、二人の前に姿を見せる。


「「?」」

「ねぇ、調べるの?」


口は勝手に動く。

死の覚悟は西ブロックに生きてからずっとあったからか、危険のある仕事にも何も感じない。


「ああ、小さな情報でもいいんだ。」

「でもお前の小ネズミも入れないんだろ?!」



確かに、矯正施設は入ったらアウト。

帰ってこれる可能性は九分九厘無いといえる。


「・・・・私、その仕事貰っていい?」

「・・・・え、・・・?何言ってるんだよ?」

「行けるのか?」

「行くよ。ただ、もし失敗したら、例の約束お願いしたいんだけど?」

「わかった。」



にっこりと微笑んでやれば、イヌカシは酷く悲しそうな顔をしていた。

「本当に、行く気か・・・?」

「そうよ、イヌカシと違ってこれ一筋だもの。でも私が居なくなっても情報は君がいる。」

「・・・・」

「じゃあ、行くね。何か分かったらいつもの鳥をイヌカシに飛ばすから。」




私は矯正施設に行く準備をするために部屋を出た。




「ネズミ・・・いいのか?、多分死ぬぞ?」

「情報は手に入るんだろう?」

「いい加減にしろよ!の気持ち知ってるんだろ?!」


イヌカシがネズミの胸元を掴みかかるが、ネズミに動きは無い。

「それがどうした?」


「・・・あんな・・・っ、大切そうにしてたくせに、紫苑が来てお前変わったよ!!」


イヌカシの悲痛な声が途切れたところで、ネズミはイヌカシの腕を払い、踵を返した。
















「あれ、さん帰るの・・・?」

「うん、お別れ。・・・・・・・・ねぇ、紫苑?」

「?」


は屈んで、犬に倒された紫苑の両頬を包み視線を合わせた。



「お願い、ネズミを見ててあげてね・・・・・私が見れない分。

君に負けた時点で私は無意味だから・・・・・・・・残念、結構好きだったのにな。」



君に勝っていたなら、少しは生きれるのに。

負けたらもう無意味。どんなに想っても通じない。





「バイバイ、紫苑」

「・・・・さん?」



笑って、包み込んだ手を放し、すっと立ち上がって歩き出した。

不思議なことに、怪我をしていた足も痛みを感じない。

自然と背中も伸びる。

ただ、世界が単色に彩られてた。

別に日ごろから鮮やかだったわけじゃないのに、この単色が酷く悲しかった。



さあ、行こう。

最後の仕事に。








紫苑はさっきのの言葉と表情が忘れられなかった。


   ―私が見れない分―


   ―無意味―


   ―好きだった―


あまりに悲しそうに笑っていた。一体何が?


「何してるんだ?こんなとこで倒れて。」

「ネズミ!あ、これは・・・・犬と・・・・ってそうじゃなくて、さんと知り合い?」

「は情報屋だからな。」

「・・・・・・・・・・・・・さん、悲しそうに笑って言ってた。"好きだった"って。」


きっと、それは僕も知らない感情の一つ。

だけどずっと早布に貰ってた感情だと思う。

































「つっ・・・・もう終わり、かな・・・・。さ、行きなさい?」


システムの一部を止めて、取った情報を持たせた鳥を放つ。

逃げ道はあるのに、身体は動かない。

どうやら私は見つかったらしい。ああ、ドジだなぁ・・・。


でもやっと死だ。

目を閉じて、私は睡魔に身体を譲った。































キューイと鳥の声がして、入り口の方を見れば一羽の鳥が入ってくる。

珍しい鳥だから、すぐにそれはのだとわかった。


その鳥の足には小さなカプセルと、赤が付いた紙。

カサリと紙を開けば、手紙があった。






『イヌカシ


失敗したときのために書いた手紙・・・ちゃんとイヌカシに届いてる?


このカプセルに情報入れるからネズミに渡して?


・・・私は西ブロックでイヌカシ達に会えてよかった。じゃあね。』






「嘘・・・」


 が 死 ん だ ? 



































ネズミはある丘の上に居た。

小さな白い花と、カプセルを手にして。




「意外にも脆かったんだな、もっと強かったんじゃないのか?」


―『何、私だって普通の女の子だけど?』―


いつも言い返してくれるはずの声が、言葉が無い。

それが、彼女が居なくなったことを示していた。



「俺は・・・・紫苑に執着しすぎなのかもしれないな・・・・前のアンタに執着したように」


自嘲の笑みを少しの間浮かべる。




「おやすみ」



ネズミは小さな花に口付けを一つして、土の上に置いた。



小さな小花は地に返る
(人の中に種を蒔き置いて)














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似非bUでした!(えぇ
おそまつ!

友達に借りて読んだの、うろ覚えで書くなんて無謀でした;