あぁ、気づけばもうこんな御時世。

何が楽しくて、ここで生き延びているのやら。






「馬超。出陣は、いつになりそう?」





城壁で外を見る、涼州の主に並び問うのは、まだ少女の域を出ない


黒髪を靡かせている女―

いたって軽装ではあるが、これでも戦いに出る者である。










「」

「ん?なあに、馬超。」




「この戦、どうなると思う。」





の勘は、不思議に思うほどあたる。


勝つと言えば、いつも勝っているし、その逆もしばしばだ。







だからこその預言者に聞いているのかもしれない。


この軍勢からしても不利になり始めている自分らの行く末を。







「聞きたいの?自分が不利と知っていて。」









「ああ」



「…いいよ。教えてあげる。この戦はね・・・・大敗するよ。こっちが。」









やはりな、と思う。


これだけ、同盟主がいなくなり、身近なところしか残っていないのだから。




ただ一つだけ、悔みたくなる事もあるけれど、

この時世を生き抜くのも嫌になったところだ。





ここで世界から逃げて、負けてしまおうか















「馬超。逃げるのは許さないからね。涼州の君主らしく、清く生きて。

キミには、誰よりも真っ直ぐな信念があるはずだから。」














こちらを見向きもせず言うというのに、重く圧迫されるような気がした。





「わかった。そうしよう。、出陣は明朝。岱と共に準備をしておけ。」



その言葉に、がふと微笑んだように、空気が和らぐ。



「御意に。」




くるりと踵を返して、残り香を置いていく。


負けを知っているというのに、凛としていられる彼女は強い。





確かに、武では男に負ける事もあるだろう。

しかし、精神では折れる事を知らない。







「この戦い、負けられないな」





少なくとも守りたい人間を守れなければ、そこで負けだ。



岱と……

お前たちを、守れればまだ勝ったと言える。




生きていれば、地を無くすだけで済むかもしれないのだ。












不思議と、この乱世から逃げたいという気持ちはもう無かった。



の言葉が、全てを抜き去ったかのように…








心の中は、父たちが生きていた頃のように、清く澄んでいて、



戦いが始まる前の高揚感があるだけ。




















「馬岱。明朝に出陣だって。」

「そうですか。兵はいつでも大丈夫ですよ。兄上は…」


「もう大丈夫。いらないものは取ってきたよ。あとは、時だけかな。」


「ええ、この勝負は生き残れば勝ちでしょうね。」




ゆるりと微笑みあって、互いの健闘を祈った。


必ずしも、馬超を生き残らせて。

自分らもそれに付きまとってやろうと。





「「「この時世、生き残ればまだ希望はある。」」」




いつしか、誰かが言った言葉。

それが合言葉である。












「ねぇ、馬超。知ってるかな、劉備を。何かあったら、彼のとこに行こう。」

「それもいいかもしれんな。もし、そうなったら俺とと岱と兵で行こう。」








現実を見て嘆くよりも希望を見出して


そして愛しきキミと、この世界を生きよう










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