例えばですけれども、愛しい貴方様を失い、憎い主様が残った場合。 私は何を選んでいいと思います?どうせ、どの選択もロクなものはありませんけども。 でも生きながら死んでいる私には魅力的ではありませんか? 何を信じて、どう生きればいいの? 生きる術は学んだ。 彼から、学んだのに。 でも彼は死んでしまった。 彼を信じて生きてきたのに、彼は嘘をついた。 ずっと一緒、という何とも優しい嘘。 私が、無知だから気付かなかったけど、本当はありえないと分かる。 誰も同時に死ねる人などいない。 だから、ずっと一緒なのは私にとって嘘。 でも彼は死ぬまで一緒だったんだから。だから彼にとっては嘘、じゃない。 「だから姜維、アナタは馬鹿よ。」 恋人を遺して、どうするの? ずっと一緒なら、連れていきなさいよ。 私はどうやら置いていかれたみたいだ。 昔と同じ。私はひとり。 でも、ふたりの幸せを知ったから、ひとりが嫌いになってしまった。 これも、アナタの所為。 そう言ったら、アナタは苦笑してくれるんでしょ? どっちにしても私は生き方がわからないの。 蜀も姜維も消えた世界で、何を支えにすればいいの? 「殿、書簡をお願いしてもよろしいか」 「もちろんですわ、劉禅様。貴方様は蜀が終わろうとも、私の主です。」 だから私は嘘で塗り固められた仮面と言葉で、かろうじて生きながらえている。 心中では、どれだけ主を罵ろうとも罰せられはしない。 何故、この人は此処で生きているのだろう。 姜維は蜀の為に最期まで戦ったのに。 何故、蜀を捨てた劉禅は… 「…姜維、私は醜い女だった。もう辛いので去ろうと思うけど、自害では貴方に会えない。ごめんね。」 頼まれた書簡を届けたら、この懐に潜んでいる刃を喉に翳して、楽になろう。 たとえ姜維に会えなくても構わない。 ねぇ、姜維は怒るかな。 どうして生きなかったんだと。 もし会えたら怒ってもいいから、少しだけの苦笑と、その手で撫でてください。 虚勢シンキング back ============================================================ 補足 シンキングはthinkingでありsingingではありません。 考えとかの意味合い。