ただ、ポツリと呟きたいだけ。
 けれど、それを出来ないだけ。

 どうしても、自分の国がどこかと戦う時は、非道く怖い。
   相手が賊だろうと、国だろうと。


  また、誰かが帰ってこなくなってしまうから。
   それが、いつ、大切な人になるかが、分からないから。









「姉様・・・今度の戦いはいつ、終わるの?」




月を見上げて問うてくる、儚げな少女。


それに答えるのは、此度の戦いに出れず、妹の護衛をしている姉、尚香。






「・・・・わからないわ。兄様からも、まだ連絡は無いもの。」




「呉、勝つかな・・・皆、帰って来るかな・・・」


「・・・・・・・・・・」






月の光で、浮かび上がるの顔は、寂しそうで、何も言えない。


違う。尚香には言えない。


今回の相手が、蜀であるが故に。






「・・・・・・・誰も、死ななければいいわね。」








「うん。孫呉の皆も、劉備様も・・・・・・・・この戦いが無くなればいいのに」






この乱世には無理なこと、と苦笑する妹は戦場を知らない。



けれど、姫に生まれてしまったが為に、政治を知ってしまった。


君主や、上に立つものの目標・・・自分が一番だと示したい利己的精神・・・・醜いものを。










―哀しき世に生まれし小鳥

       飛ぶことも許されず

   親の代わりに喰われる

        残るのはどれだけか―











不意に、が紡いだ歌は、何故か悲しくなるような気がした。





「何?その歌・・・初めて聞くわ?」



「うん。この歌を知るのは、伯言様だけだったから。

この乱世に生まれた人間の多くは、自由なんて無くて、命により戦に出る。

そして、君主を、国を守るために命を散らす。

生を受けた人間は、寿命で死ねるのは、終わりを静かに迎えるのはどれだけだろうねって」





戦を知らぬ妹も、この世の悲しさを知っている。





尚香と同じく、愛しき男性を待つだけ。






「・・・・・・・・・・貴女は、幸せ?」




「・・・うん。幸せだよ・・・・自由があるんだもの。それに、私は斬る悲しさを知らされないから。

姉様は、自由になれない小鳥の1匹?」





「どうかしらね、玄徳様には会えないし、戦いにはでるし・・・。けれど、会えたことが幸せよ。・・・寂しいけどね」






姉様は、強い。



その単語をさらりと言えてしまうから。






「貴女は、寂しい?」







「・・・・・」





答えれない。


答えてしまえば、もう止められない気がする。


私は、弱くなってしまう。







「溜め込むのは、の悪い癖よ。ほら、泣いちゃいなさい。」




ポスンと胸に抱き寄せられ、頭をポンポンと叩かれる。


この際・・・・弱くなってしまおうか。




「・・・・さみしい。さみしいよ・・・・姉様・・・・・・・伯言さまに・・・・会いたいよっ!」







"さみしい"と口にしたとき私の中で何かが壊れた








壊れたら、止まらなくなった。


ぽろぽろと雫が溢れて流れては、服を、頬を濡らしていく。




「伯言さま・・・帰ってきて・・・!」





弱音を吐くのは嫌いだった。私は辛い思いをしてないのに。

姉様は何も言わず、ただそっと優しく撫でてくれる。


寂しくて仕方ないのに、安心できた。




























それから、目を開けてみればもう明るくて、場所は私の寝台の上だった。


誰かが立っているのは分かるけれど、逆光で影しか見えない。



「姉様?」




影が動く。けれど窓の光から抜けることはなくて。



「いいえ、僕ですよ。。」



はっとした。その声を、人を待っていたのだから。










「は、くげん・・・さま?」






「ええ、ただいま帰りました。」


「おかえりなさい!伯言様!!」






寝起きで、寝着なことも忘れ、起き上がって抱きついた。



「ずっと、ずっと待ってました・・・。さみしかった・・・・。」


「・・・」





陸孫はそっと、の額に口付けを落とし、ぎゅと抱きしめる。



「僕も、寂しかったですよ。戦場でも、貴女のことばかり考えていました。」

「もう戦いは、終わったんだよね?」




「ええ、もう終わりです。これからは共に居られますよ。」



「ずっと、ずっと一緒にいてね?さみしいって口にしなくていいように。」








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