落とし穴の上を歩く


まだ、足元は不安定で、今も誰かが落とそうと穴を掘っている。

この軍師に気に入られた少年を、穴に落とそうと・・・・







は、軍議にてひとつの不安があった。





新しく孫呉に入ってきた、軍師見習い、陸議。

いや、今は陸遜と、言うべきか。




呉郡の四性に数えられた陸家の当主。




その彼は、周瑜や呂蒙のお気に入りであるということを、良く思わず、

何とかして彼を落とそうと、している。



今も、意見を述べた陸遜に非難浴びせてみたりして。





「どうにか、ならないものかしら・・・周瑜殿?」

「難しいところではあるな・・・・ここで落ちればそれだけの器ということだ。」

「そうよね・・・」






横に居る周瑜に、そっと聞いても自分が、軍師としての自分が思うことと変わらない。




軍師としては、使えるものを見極める必要があるし、

軍師の素質をみたら、どんなことがあっても策を実行する非情さや、

上に立てるかを見なければいけない。






それに、彼は好き好んで孫呉に入ったのではない。


家を攻められて、そしてどうしようもなくて、此処に来ている。





名前すらも変えられて。








そんな彼が、間者であるのか、謀反を起こすような人間かを見極める。


それが、今の私の仕事の一つである。




けれど限界も、あるのだ。


「いい加減にしてください?皆様が、新参者を好まないのは勝手です。

けれど、今は軍議。その軍議を怠って敗戦でもしたいのですか?」






非難を浴びせる文官たちに、いい加減嫌気がさした。


話を進めるために、この場に集まったというのに、彼らは非難しにきたとでもいうのか。





「殿の言う通りだ。私も、この軍議を怠るのは良くないと思うが。」





流石に上官である、私や周瑜殿に注意されてまで、非難を口に出し続けるものは居ない。


まだ視線を、陸遜には送っている者がいるが、それならほかって置いても構わない。





「では、陸遜殿。先の説明の続きをお願いしても、いいでしょうか。」






止められた説明の続きを促し、軍議は進んだ。


最終的には、陸遜の提案した策に、私や周瑜殿、呂蒙殿の意見を加えたもので終わった。




周瑜の「それでは解散する」という声を合図に、皆が出て行く。



「周瑜殿、呂蒙殿。私は先に失礼するわね。堅苦しいのは苦手だわ・・・。ご苦労様。」



私も例外でなく、挨拶をして出て行く。





「ああ、殿も騒動を止めてくれて助かったぞ。俺も抜かれるのは間近か?」


「呂蒙殿、これ以上、殿に気苦労をかけるな。まだ、20歳にもならぬのだから。」



「あら周瑜殿、私は大変だけど楽しいわよ?まぁ・・・甘寧殿とかは例外で。それでは、失礼。」




冗談を言い、軍議室を後にした。

目的地は、甘寧の執務室、そして鍛練場だろう。


「どうせ、執務室は山だけよね。」















が去った方向とは逆から、一度出ていた陸遜が戻ってくる。

「おぉ、陸遜。今回の策はよかったぞ。」


「ありがとうございます。あの、先ほど庇ってくださった方は・・・」



軍議の片付けをして、その後、話したいと思っていた陸遜だったが、丁度すれ違い。





「残念だが、丁度今出て行ったぞ。用事だったか?」

「お礼を、言いたくて。」



「それなら、鍛練場で待つといい。そのうち甘寧を探しに行くだろうからな。」


「うむ、違いないな。」


「ありがとうございます。行ってみます。」







ちょっとしたことを思った。


あの姿が、どこかに仕官した殿に似ていたから。


昔、恋焦がれた人に、とても似ていた。

だから、会って話してみたい・・・・
























「ああ、もう!!いい加減にしてくれない?!」

「いいじゃねぇか!それくらい!!」




鍛練場には、怒声が響いている。





「あの、」




声に反応したは、甘寧への怒声を止め、振り返る。



「あら陸遜殿。どうしたの?」


何も無かったように。

もちろん戸惑うのは陸遜。




「え、あ、あの、先ほどはありがとうございました。」



「いいえ。同じ軍師仲間を守るのは当然よ。それに、新参者は大抵ああなるものね。

それを自分で抑えるかは別として。ねぇ、甘寧殿?」



陸遜と話している最中に逃げ出そうとした甘寧だったが、ばれていたようで。




「・・・・そうだな。」

「後で、執務室に私のお付きを送るから、渡して頂戴ね。じゃあ行っていいわよ。」




俺、アイツ苦手なんだよな。と呟きながらしぶしぶ退場した甘寧。












「陸遜殿、見苦しい所を見せてしまってごめんなさいね。」



「い、いえ。・・・・・あの、一つ聞いてもいいですか?」

「ん?どうぞ?」



にっこりと了承した彼女に質問した。






「あの・・・・・・呉郡出身ですか?名は、では・・・?」







「そうよ、陸議。お久しぶり。覚えててくれて嬉しいわ。これから、よろしくね?」








「はい!よかった・・・・ずっと会いたかったです。」

「私も。陸遜、落とし穴には落ちないでね。落とさせはしないけど。」




こうして、不安定な少年は、足場を作ったとか。







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