馬鹿な人。そう言って前のように笑って欲しかったのかもしれない。



僕には何人か尊敬する、師がいる。


孫呉では、周瑜殿や、呂蒙殿。敵国だけれど、諸葛亮先生も凄い。




あと、どうしようもなく憧れたのは、同じ貴族であり、小さい頃遊んでくれた、殿。





彼女は女性でありながらも、兵法や薬学などにも通じており、

僕が軍師見習いをしている頃には、一介の軍師として働いていた。




多分、今の僕より若かった。



今の彼女の立場は、蜀でいう月英殿に似ている。

直接、上に立ち指揮をするのではなく、さりげなく男性を立てながらも、補佐をし、提案をする。







そんな彼女は、偉そうになどしないし、寧ろ誰にでも優しい。


しかも、美人である。二喬や周瑜殿と並ばれても、劣らぬ容姿。





そんな彼女を嫌いになる者など、いるわけもなく・・・










「結局は恋敵なわけですよね・・・・」




そう。尊敬していて、尚愛している。


この孫呉に入る前から、ずっと。



だけど、僕がそれなりの位につくころには、彼女を慕う男性・・・恋敵は多かったのだ。


しかも彼女は僕のことを、弟のように、子供扱いする。










「どうしようも、ないじゃないですか・・・・・・・」






執務にも身が入らず、休憩に廊下に出てみたものの、


考えることは、のことばかり。





溜息を何度しても、足りないくらい。













「あれー?陸遜、どうしたの?」




楽しそうに走ってくるのは、二喬の片割れ、小喬。





「少々、疲れてしまいまして。」


「うーん・・・あ、のことで、でしょ!」



これしかない!と言わんばかりに、びしっと指を指してくる。


もはや此処まで言われてしまうと、肯定も否定もできず、苦笑するしかなかった。




「よし、陸遜も一緒にお茶しようよ!大丈夫、周瑜様とか孫策様もいるし!」




抵抗できず、言われるがままお茶をすることとなった。

どうやら、お茶は殿の私室で行われているらしい。




「ただいまー。陸遜に会ったから連れて来ちゃった。」


「あ、おかえり小喬。陸遜も、いらっしゃい。ふふ、じゃあお茶を入れるわ。

他におかわり飲む人は・・・・?」




その声に、全員が返事し、は全員のお茶を淹れにかかる。


席をすすめられ、座っていると、ふわりと香ばしい茶の香りがした。

















「はい、陸遜にお茶を淹れるのは久しぶりね。」


「ありがとうございます。」





懐かしい香り。昔は毎日のように飲んでいたというのに。





口に含んでみれば、やわらかく、気持ちが落ち着く。




「ねぇ、さん。今度私にお茶の淹れ方を教えてくださいませんか?このように淹れれるなんて・・・」

「私も教えてー」



和やかに流れるお茶の時間は、女性だけだったり、男性だけだったり、時には全員で話をして過ごした。


気付けば、もう大分太陽の位置は変わっているのに気付く。




それを気付いたのは陸遜だけでなく、もだったようで、にっこりと微笑まれた。




「さて、皆さん。今日のお茶はこの辺にしておきましょう?

まだ、軍師である私たちも仕事がありますでしょうし、孫策様においては、調練の時刻ですよ。」







「そうだな。孫策、我々も戻るとしよう。」

「おぅ。」

「じゃあ、さん、またご一緒させてくださいね?」

「じゃあねー」





帰るときは夫婦仲良く、ぞろぞろと帰っていった。

笑顔で4人を見送った後、不意に此方に向くものだから驚く。







「で、どうしたの?来たとき、辛気臭い顔してたわ。」





「・・・・・・・殿は、」


「うん?」


「・・・・いいえ、なんでもないです。お茶ありがとうございました。」






礼をすると、くすくすと笑っているのが分かった。


笑う要素なんて、無かったはずなのに。

あっても、見せていないはず。







「相変わらず、陸遜は馬鹿なんだから。」




「え?」






馬鹿と言われて、思わず間抜けな反応をしてしまった。


軍師として、知識も大分手に入れたというのに、まぁ彼女程ではないかもしれないが。





「どうせ、恋敵が出来たーなんて思ったんでしょう。昔っから、そうだったんだもの」



見透かされている。というか、知られている。全部。



「な、な・・・・・」


「覚えてないの?まだ会っていた頃、陸遜がお嫁さんにしてくれるって言ったのに。」




言ったか・・・?いや、一族のことに追われて忘れていたが、確かに言った。



「・・・・・・・・覚えてます。」


「ん、じゃあ責任持って、お嫁さんにしてね。適当に仕事しながら、陸遜が抜くのを待っててあげるから。」


「はい!」



意味無く嫉妬したりした。







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