明けぬ夜を望む







「惇、また夜が明けるわ。」








「夜は明けなくていいのに。」
















毎度、共に夜を過ごすと聞く言葉だった。


暁の空を作る、まだ見えぬ太陽を嫌う彼女だった。








「・・・何をそんなにも嫌う。」









多くの人間は、夜を嫌うというのにも関わらず、

彼女が昼を嫌う理由がわからない。




夜は、見えにくいため不意をつかれやすく、道を容易くは歩けぬ刻。

自分すら見えなくなるほどの闇を、好く事はできなかった。





「・・・何でだと思う?」






は夏侯惇が座る牀榻に座り、夏侯惇の肩に寄りかかる。



その肩を抱けば、さらに擦り寄り夏侯惇の腕に自分の腕を絡めた。






「・・・やけるから、か?」





悩んだ割には、なんとも言えない回答では力を抜く。





そして呆れたと言わんばかりの顔を、向けた。





「どうしてそんな回答になるのかしら。」





確かに、黒くなることは喜ばしくはないけれどね。と苦笑して、

ふと、真剣な眼差しをして夏侯惇を見つめた。
























「朝が、太陽が嫌いなわけではないの。夜が好きなだけ。」




















するりと夏侯惇の、盲目になった目の上をなでて、



「一つ、貴方が鏡に映らないから。」



目の上から頬へと移し、



「一つ、貴方を私のものとできるから。」



そのまま唇に触れる。



「一つ、貴方が私を愛でてくれるから。」








キシリと音を立てて、牀榻から降り扉へと歩き振り向く。










「唯一、夜明けが嫌いな理由。

貴方と離れてしまうことよ、元譲。」







は綺麗に笑みを残し、スルリと扉を抜けていった。






「また・・・私を攫いに来てくださいませ。我が父の片腕、夏侯将軍。」





言を聞いた夏侯惇はクツクツと笑う。




「何度でも攫いに行こうぞ。姫。」



















そして夜は明け、日が世界を照らしゆく。

全て見せてしまうから、いけないのだ。






「分かれさせる明けなどいらぬな・・・2人だけならば・・・。」



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