何かに縋りついてでも生き抜こうと決めている。 けれど、誰かが縋りついていい手を差し伸べてくれるわけでもない。 だから必死に、誰かの命を奪うよりも、殺さないように救えるようにと、 この乱世を彷徨うのかもしれない。 私の知が、利用されて人を傷つけぬようにと。 初めてその男について聞いたのは、黄巾の乱で供の関羽と張飛の活躍によって。 そんな仁徳を掲げ、潰れないものなのかと馬鹿にしたりもした。 ありえない。 そんな甘い事を言ってると失うぞと、少なからず思った。 それでも、彼はこの年まで生き延びていて、私の目の前に現れた。 「殿。私と共に来てはくれないだろうか」 ああ、心地よい。 彼の心の波動が、あまりにも優しく心を揺らす。 この波に乗ってしまえと、甘い夢を叶えてやりたいと。 だが、 「すまない。我の望みは平穏であるが故に、自らを乱世の中枢に置こうと思えない。 そして、劉備殿を信用するわけにもいかない。」 本当なら、この波にのるべきかもしれない。 ここよりも、殺しを減るかもしれないし、なにより殺さない術を提供できるかもしれないからだ。 「…そうか、誠に残念だ。だが、殿の言は正しい。また、訪ねさせてもらってもいいだろうか」 「何度でもくるといい。我を連れたいならば、我の気が許すまで」 返事を聞いた彼は、挨拶をして庵を出て行った。 すくなからず緊張していた肩の力を抜けば、溜息もでた。 「頑固同士、どちらが先に折れるだろう」 答えの出ている疑問を零しては、窓から外を眺める。 ただ、戸惑いが残るのだ。 私はこの時代に生きるもので、未来に生まれし人間。 未来を知っている私が、未来を変えたら… なにが、どう消えて変わってしまうのだろう。 劉備は、三日と開けずに訪れてくる。 これで五度目となる。 「殿。私と共に来てくれないだろうか?」 ここが潮時。この名も、全部。 「そう、だな。ああ、義兄弟もいるのなら入ってもらってくれ。話がしたい。」 ふわりと、笑みをこぼす。 劉備とその義兄弟が座ったのを見て、口を開いた。 「我は…ううん、私は実際という名ではないんだ。 これは友達の名前。ここからとても遠い、国の。 私はという名前。そして、私は異物です。」 「それは、どういう…?」 「劉備様。ならびに関羽殿、張飛殿。貴方方の行く末を知っているのです。 私は、ここより遥か未来の文学が優れた世界より来ています。」 話した真実を3人は不思議そうに眺めていた。 そんなことがあり得るなど、誰も思わないだろうし。 「だから、ここでは演じてた。けれど、心を決めたんだ。 貴方達が私を認め必要とくれるなら、 この未来を良い方向へと向ける手伝いを。」 「…殿。私は、そなたを必要としたからここに居る。それではいけないだろうか。 そして…雲長や翼徳は知っているだろうが、恥ずかしながらも、殿を慕っている。」 「……え?」 多分、今私は鳩が豆鉄砲をくらったような顔をしているだろう。 いとも簡単に認め、そして信じるを通り越して、愛情を向けていると言った。 「…やるじゃねえか兄者!ここで告白するとはなぁ!」 「何もかもを飛ばされるのも、兄者ならでは、か。」 「えと…?」 戸惑う私の手を劉備は、そっと取り笑う。 「もしよければ、軍師としてだけでなく、私の妻となってくれないだろうか」 これは、真面目なプロポーズを受けているということか。 ずるい。きっとこの人は、私が少なからず好意を持っていたのを知っていたのだろう。 だから、このタイミングで言うのだ。こういう決定打となるものを。 「劉備様こそ、私のような異物の夫となってくださりますか?」 「異物などではない。殿は、事実ここに生きておる。」 「そう、だね。……これから、宜しくお願いします。」 今までは、自身がつけてきた知識に縋って生きていた。 誰も手をくれないから。 でも、この人は命を軽んじていないし、自ら手を差し伸べてくれた。 縋ってもいい手をくれた。 縋る腕を取り横に立たせて この世界に来た以上、綺麗ではいれないのだ。 それはもう十分知っていた。 だから、少しでも被害を減らす方法を差し伸べよう。 「劉備様。私は、人を殺す策は出せません。人を多く生きさせる策を考えるよ?」 「うむ。頼もしいではないか。我らも、優しき軍師を欲していたのだ。」