○ 雛のままの兵士に武という名の餌を ○







神経を研ぎ澄まして、敵の気配を読む。

気が動くのに反応して一歩下がり、気が緩んだ瞬間を狙い、敵に得物を突きつける。





「終りだ。」








の一声により、勝負は終わった。







その場にいた誰もが、ただ呆然と見ることしか出来なかっった。




は目に巻いていた布を取ると、相手をしてもらってた渡畝に目をむける。



その視線に気づいた渡畝は、一つだけ頷いた。















「よし、お前ら。本来ならここまで出来て欲しいとこだ。理由はわかるな?

まずは相手の攻撃を見て、どの動作をしたらどんな隙が出来るか見極めてみな。

あとそれだけじゃ時間が勿体無いから、アタシと渡畝も混ざる。

そのときには癖とかの指南してやる。」








「じゃあ、槍の兵はに、剣の兵は俺だ。俺の方は向こうの方でやるぞ。」







2人の指示に従い、鍛練を始める。






渡畝は始めから、兵に混ざっているみたいだな・・・。

いや、でもアタシはいつものやり方にしておくか。






「久那、行けるかい?」

「はい。いつでも。」





にっこりと返す久那の手には、千鳥形の槍。


しかし、普通の槍よりも短く、久那の為に作られたことがわかる。



2人は一番近くで打ち合っている兵の下に行くと、1人ずつを相手する。











「アンタの癖、気づいてるかい?槍を短く持つのは、

接近戦で意外といいように見えるけど、防げるのかい?」





話しながらも、が槍を振り、それを兵は受け止めようとした。

けれど、それは出来ずに首に刃を向けられる。






「な?短く持つと便利ではあるが、防ぐのに地面に当たって遅くなるだろう?

まぁ、それはこれからの練習でなんとかしてやるけども・・・

もう少し長く持って、突くだけじゃなく、薙ぐのもありだと思うけどな。分かったか?」





「は、はい!!」





兵の勢いがある返事に笑うと、少し奥でやっている兵に声をかける。




「アンタも、槍を短く持ちすぎ。防御の前に地面にぶつかっちまうよ。」

「・・・なるほど、わかりました!」




「それと、アンタは手首が硬いね。薙いだ後に槍が滑らかに戻ってない。

ガチガチに戻すと、槍が一瞬止まるわけだから、隙になってねらわれるからな。」






は簡単に、それでいて的確な指南をする。

久那や渡畝も、の弟子であるから教え方は多少なりに違うものの、確実に成長を重視しているものだった。











それからも打ち合いを続け、一通り指南を終えたところで、は武器をおろす。











「よし、お前ら休憩にする。半刻とるから、昼食をとってこい。あとは十分に体を休めろ。

午後は厳しいことをするからな。着いてこれなかった奴は、居残りだ。」





まるで悪戯をするような、ニヤリとした笑みを浮かべたは、久那と渡畝を連れて出て行った。




もちろん向かうのは自宅の中であるのだが。



久那に昼食を頼むと、自らは書き物をするための机に向かう。



「渡畝、そっちはどうだい?」


さらさらと兵の名を書いていき、癖や攻撃の特徴を書いていく。







「・・・数人は、剣を持って間もないみたいだが、悪くはない・・・。けれど時間が厳しいかもしれないな。」







「半年か。いいだろう。今月は槍だけをアタシが見る。来月は剣だけを見るから、

渡畝、アンタ今月中に基礎体力をつけさせな。きつい修行になるからな。」




笑顔で言い放つだったが、その修行が予想できた渡畝は兵達に合掌した。



何しろ、自分もさせられ、鬼だと感じたのだから。







「・・・・では、私は武器よりも包帯とかを持ったほうがよさそうですね。」



苦笑しつつも、料理を運んできた久那に肯定の意を伝え、食事を始める。

































「兄上、未だに悩んでいらっしゃるのですか」



部屋から庭を見ていたら、親貞が声をかけてくる。


それも質問的でなく、すでに決定されている。事実では在るのだが。






「・・・・。オレは、何かを・・・・・忘れてんだよな」

「そうですね。」




さらりと肯定するのは、その何かを知ってるということ。






「お前は、知ってるんだな?何かを。」









「ええ、全て覚えていますよ。もちろん親泰も、その頃からの兵も、ですけどね。」







「それはオレが自力で思い出すべきなのか?」







「・・・・・どうでしょうね。全ては兄上とその方の意思によりですから。

しかし、一つ言わせてください。その方は、今でも命を捨てても守り抜くつもりですよ。

兄上が何と言おうと、思い出さないままでは失礼だと思いますよ。」








親貞は言うだけ言って、出て行く。




オレはどうすればいい。




結局、それが分からないと気になって戦どころではない。





親貞の言う"その方"とは誰だ。





何でオレだけ忘れてる?





空は随分と晴れ渡っていたが、元親の心中は晴れとはかけ離れている。

疲れたと言わんばかりの溜息を一つ落とし、また思考に埋もれた。







(アンタの為にアタシは強くなろう。そして守る人を育てよう。アンタの悲しみがないように。)