○ 人魚の決意の合図 ○








先日、親貞に言われた言葉。


それをどうするべきなのか、決めかねていた。

久武の姪。それは姫若子をやっていた頃からの付き合いで、それなりに遊んだり学んだりした。

けれど、いつだったかの戦で怪我を負って顔を出さなくなった。




今でもその怪我の恐怖があるのではないか、また戦に身を投じるようなことをしてくれるのかも分からない。

何故姿も思い出せない。



ただ、そんな存在が居たとしか思えなかった。








それと同時に気になるのが、親貞の言った言葉にあった鍛冶。



女であり鍛冶を仕事とする奴といえばアイツが浮かぶ。― 










もしが、久武の姪であるとすれば余計に戻って来いなど言いにくかった。



が覚えていて、俺は覚えていない、何か。


その所為で悲しい顔をさせてしまった。

そんなことがあったのに、俺の為に戦ってくれるだろうか?










漠然とした不安が溢れては溜息をさせる。


「・・・・・らしくねぇな・・・」

もう一度だけ溜息をして、部屋を出た。































「親貞、親泰、居るかい?」

「・・・・その声は・・・・・・・・入ってくだされ。」


「ああ、失礼するよ。」





襖を開けて、堂々と入ってくる女――は、親貞と親泰の前に座る。

城主の血筋の者を前にしているのに、引くことなく寧ろ余裕だと言わんばかりの空気を醸し出していた。





「久しいですな、殿。」


「そうだな・・・4年ぶり、親貞も親泰も元気そうじゃないか。まぁ、親泰は微妙だけどな」


「なっ、仕方ないっての!山賊潰しに行ったら他国の奴も紛れてたんだから。」







「それはそうと殿。此度はどうされたんです?貴女がわざわざ出向くなど珍しい。」





軽い談笑の後、親貞の言った質問により場の空気は真剣なものとなった。

普段から自由な生活を送るようなが、わざわざ城に出向くなどまずありえない話だ。


城に行くくらいなら、海に行ってるような女なのだから。




「ああ、ちょっとした質問に来たのさ。」



ふっと笑い、しかし目は真剣そのもの。










「今、長宗我部軍の兵力と、その敵についてをね。話せる限りで構わない、戦のこととかも知りたいんだ。」






「・・・・・確実に味方として戦うと言うのであれば、お話しします。」


確かに何処にも属していない者が情報を聞き、そのまま敵の下へと下るのは避けたい。



どうやら、アタシがいない間に親貞も成長したようだ。




「状況にもよるが、敵になることはないから安心しな。変わるのは戦うか、今まで通り見てるかが違うくらいさ。」

「わかりました。親泰、兄上を呼んできてください。それまでに説明をしておきますので。」


「了解。適当に戻ってくる。」


元親を呼びに言ったのを見届けると、二人は向かいあって話し始める。









「現在の兵力は600前後。これは農民を入れての話であり、兵だけとすると200を切る可能性がある。

それなりに危険な状態です。そして敵は一条、三好、河野。言えば四国に座する大名全てです。

最近では、一条が動きを見せているのでとりあえずは、一条との戦になるでしょうか・・・」






「・・・・一つ聞くが、元親は一条を攻められるか?」



「それはどういう意味か?」


「一条といえば、元親の父上を養育した旧恩ある家。それを攻めることが出来るかってことさ。」


「・・・・・・・・・・・・・」





確かに四国統一を目指すもの構わない。


しかし、兵を家族と思うほど情に溢れた元親が父の恩ある家を滅ぼすことが出来るのか。

きっと躊躇いをみせる。






「まぁ、どちらにせよ厳しいのは確かだな。親貞、願いがある。」

「何ですか?」





「アタシをもう一度この軍で使ってはくれないか?」




「身体はへい・・・いえ、これを聞くまでもない。」


不敵に笑うをみて、親貞もふっと笑った。

「わかりました。」














「親貞、入るぜ。」

「どうぞ。」


いつも通りの風景を見るつもりだったのに、いつもとは違うことに元親は驚きを隠せなかった。



先ほどまで考えていた奴が目の前にいるのだから。

呆然と口を開けて固まる元親をみては顔を逸らせ笑っている。





「兄上・・・馬鹿みたいですよ。」

「え、ああ・・・・」

「ほら、早く座ってください。話を進めますから。」





どうやら主導権は親貞の手にあるようだ。


まるで元親にはない。元親がもつのは主導権ではなく決定権だけ。

「さて、これで必要な人間は揃いましたね。」







「これから四国統一についてのことを話しましょう。」




(アタシは一度は降りた舞台に戻ろう。)