○ 相変わらずの人 ○







あれから一週間が経った。

足の傷も多少痕が残ったものの、痛みは既になく完治している。


いつ渡畝との手合わせになってもいいように、と愛用の二槍・・・蒼槍も磨いだ。





「さん、渡畝さんがお見えです。」

「わかった。今、行くよ。」



磨いでいた刀を棚に置き、店へと姿を現す。







「待ってたよ、渡畝。しっかりと得物は持ってきただろうね?」


「当たり前だろ。勝敗を見極めるのは同じ部隊の奴でもいいだろ?」


「構わないさ、こっちは久那だしね。」





簡単に審判となる人に挨拶をして、刀の切れ具合を試したり、自己鍛錬に使う中庭へと連れて行く。











「場所はここでいいだろう?」


「・・・懐かしいな。昔はよくここでやったもんだ。」



この中庭は昔、が渡畝に武術を教えた場所である。

しかし、渡畝にそれなりの力が付いてが教えることをやめて以来は共に来たことなどない。




「思い出に浸るのはいいけどさ、結果も思い出と同じだろうねぇ」


馬鹿にするように言ってやれば、にやりと笑ってくる。


「俺はそこまで弱くねぇぞ?今ではそれなりの位に着いてるんだからな。」

「さぁ、どうかねぇ?」


前もって中庭に置いておいた蒼槍を手にし、中心へと行く。



「実力みて驚くなよ?」













渡畝も位置に付いたところで、二人は構える。


次に二人が動くのは始めの合図があった瞬間だ。


「それではお二人とも用意はよろしいですね?」


久那の確認が入る。


「「ああ。」」











「では始めてください。」

そして渡畝のつれてきた男の声で始める。

















最初、は構えだけで動きは無かった。

それとは逆に合図があった瞬間、渡畝はへと向かう。



渡畝の勢いをつけた一振りを、は容易く受け止める。





「勢いつけてこんなもんかい・・・あきれちまうね。」



そのまま弾き返せば、渡畝もバックステップを踏んで少し距離をあける。


その後も渡畝が攻め、は受け流すだけだった。



は渡畝の体力を確実に削る一方で、自分は体力を使おうとはしていない。

幾度かの攻撃を受けた後、渡畝は距離を開けて動きを止めた。








「どうして攻めてこない?右手しか使わないのは手加減か?」






「気づいてるだけ偉いな。右手しか使わないのも攻めないのも必要がないからさ。

アンタのその戦い方は足軽みたいな弱っちい奴らには通用するけど、武将みたいな奴らには効かないんだっての

使って欲しいなら、頭を使いな。昔教えてやっただろう?相手を追い詰めつやり方を。」





「・・・言われなくともっ!!」



再び渡畝は勢いとつけてくる。


しかし、流されることが分かっているからの槍と交わった部分を支えにの背後へと跳ぶ。



そして振り向きながらまた、刀を振る。













―相手に手加減されてるときは逆にそれを利用してやんな。そういう奴は背後を取りやすいからな。

まぁ、傷が付けれなくともそれなりに手加減は減るはずさ。―






―戦うのに思いつきで身体が覚えてるのだけで戦うんじゃないよ。頭を使って相手の攻撃の裏を付くのさ。―










「そうこなくっちゃな。さぁて、こっちからも攻撃と行こうか、さっさと決着つけてやる。」





やっと左手に持つ槍も使い受け止め、そのまま足で渡畝を蹴る。


少し飛んだ渡畝は受身で素早く体制を持ち直す。



しかしはその数秒の隙を見逃すわけも無く、体制を持ち直したばかりの渡畝に蒼槍を素早く突き出していく。


それなりに受け止めていたが、刀は弾かれてしまいの蒼槍が渡畝の首に突き付けられた。






「そこまで!さんの勝ちですね。お二人ともお疲れ様です。」



「渡畝は弱っちいなぁ・・・いつになったらアタシを越してくれるんだい?それともまた弟子入りするかい?」





「うるさい!が馬鹿みたく強いんだろうが!」




けらけら笑って、渡畝の弾き飛ばした刀を拾いにいく。


それなりに鍛えられた刀だったみたいだが、何度も蒼槍の突きを一点に受けた所為で刃毀れをしてしまっている。



「そんな事無いと思うけどさ・・・この刀は直しとくよ。必要なら店のとこにあるアタシの刀持ってきな。

あと、約束忘れんなよ?近々、城に顔を出しに行くからさ、その時は頼むよ。」




刀とその鞘を取り、自分の蒼槍と一緒に店のほうへと持って行く。


「あ、久那。2人にお茶出してやんな、渡畝には手拭いも、かな?後は任せるから。」

「わかりました。」

















「それにしても・・・アネキ相変わらずなんですね。」





「何が。」


「強さといい性格といい・・・アニキといい勝負してるってことですよ。」


「じゃじゃ馬てか、はちきんなだけだよ・・・あの馬鹿師匠は・・・・」




「いいじゃないですか、それでこそアネキですから。」


「そういう問題か・・・?」

「そうですよ。」



渡畝たちのもとにお茶が届いたあとは2人はいたって平和な会話をして、そのあと城へと戻った。




(さぁて、これで戦場に復帰だよ。この4年分働かなきゃなぁ!)





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補足。
【はちきん】とは女性の土佐的特性の呼び名で、
南国土佐のはつらつさを行動、思考、容姿の面で極端に発揮した場合、
これを〈はちきん〉と土佐では呼んでいる。
その語源解釈はいろいろあるが、陽気で勝ち気で、男勝り、
男も顔負けの活力にあふれたしっかりもので、
行動性に富む生活力豊かなはつらつたる女性。
ばっちりですよww