○ もう一度の願い ○







した"ちょかべさん"それは昔、誰かが俺を呼ぶために使った名称だった。

それは覚えている。

誰かが毎日俺を"ちょかべさん"やら"ちかちゃん"とからかったのも。




ただ、その名称を使っていたのは誰だったのだろうか・・・?


その名を知ってるだったのだろうか?





「くそっ!」


挑発的で、明るさが消えないような奴の顔から明るさが一瞬で消えたのは紛れも無く俺の言葉の所為だ。



『お前は俺のこと知ってるからって、お前を知らねぇ俺に名乗らなかったのがいけねぇんだろ!!』



どうしてそこまで反応した?

この言葉の何には反応したんだろうか?


「・・・・ざまぁねぇな、俺。」




























「、元親様はまだ思い出していないのか?」

「・・・・そう、だろうな。お前を知らないって言うからにはさ・・・」



確かにアタシらが会ってたのは10年くらい前の話だ。


だけど、会ったのは1回、2回なんかじゃない。



なのにキレイさっぱりと記憶から消されてしまった。



それだけアタシはどうでもよかったのかもしれない。



否、会わなくなった後には思い出してる暇も無かったのかもしれない。







「渡畝、アタシもう一度さ・・・・戦いの場に戻ろうと思う。4年ほど出てなかったけど、弱くなって無いと思うし・・・」

「!何考えてるんだ!お前、死ぬ気か?!」



が戦に出なくなったのは、どこかの武将とやり合った際に右肩から胸に重症を負って生死を彷徨ったから。

その後、もう一度戦うのを試みたが以前のような鋭さが緩くなり、隙が多く出来てしまった。

隙がありすぎると、今度こそ切られて死ぬかもしれない。


仲間の兵達にも言われ、戦場にでるのを止めた。









「はっ、死ぬわけないじゃないか。アタシはもう片腕で戦うような奴じゃないよ。

今は二槍使いだっての。そこらの奴には負けないつもりだけどねぇ?」



「だけど・・・さんは今怪我してて・・・」


「久那・・・大丈夫。これが完治してからだから。」


心配そうに声を出した久那に笑いかけて、もう一度渡畝を見る。









「なぁ、熱が下がって怪我治ったら手合わせしようか。」

「・・・・・・お前の戦場復帰をかけて、ってことか?」


「よく分かってるじゃないか。アンタより弱くなってたらアタシは終わりさ。

あ、剣と槍では剣が不利になっちまうな・・・どうする、剣でやろうか?」


挑発的な笑みで相手を見れば、相手も挑発的な顔をむけてくる。




「まさか、手加減されたら困るしな?」



「お、言うじゃないか。その言葉通り手加減なしで戦おう。

日時は一週間後くらいで、アンタの仕事の無い日に来なよ。だれか、勝負を決める奴も連れてきてくれよ?」




「わかった。じゃあ、俺も帰るとするか・・・」


「久那、渡畝を送り出してきな。」



「はい。」





2人はそっと部屋を出て行った。


多分、久那はしばらく部屋には来ない。



アタシを理解してるから。























「流石にあれはないよなぁ・・・・」


忘れてるかもしれないとは思っていたけれど、面と向かって『お前を知らない』といわれるとは思わなかった。


は深い溜息をついて、左手を右肩から胸へとおろす。


アタシは誓ったはずだ。

この腕がもう一度使えるようになったとき、武を捨てることは決してしないと。

何があってもいずれは、あの人の下でまた戦おうと。




「・・・・・・・バカらしい。何迷ってたんだろ。」


戦うことに、もう一度あの人に会うことに。

それに恐れてアタシは4年も無駄にした。


これ以上は、伸ばせないんだ。

まずは、怪我を治さなければいけないな。

は布団に潜り込み、瞼を下ろした。































「兄上!」


城に戻るなり呼び止められた。


「親貞か、どうかしたのか?」

「親泰率いる、山賊討伐隊が戻りました。」


ただ戻って来ただけならば、ここまで急ぎで言わなくてもいい。

それに、親貞の表情は酷く堅い。



「そうか、それで何があった。」



「・・・・・親泰は多少の傷で済んでおりますが、他の者達は戦えぬものも多く出ております。

それに・・・今回のは山賊だけでなく、一条の者も紛れ込んでいたとの報告も。」


「ちっ、後戦える兵はどれだけ残ってるんだ?」


「農民も入れれば600はいますが、今は収穫の時期、せいぜい100、多くとも200程度ではないかと。」


「わかった。」




部屋に戻ろうとしたとき、兄上ともう一度呼ばれた。







「今こそ幾つもの戦歴を残した久武殿の姪を軍に呼び戻すべきだと思うのです。

彼女は、負傷したものの今では自由に動け、鍛冶仕事もできると聞いております。

多分、昔のままの性格でしたら今でも戦えると思いますが・・・?」





「・・・・考えておく。」

「分かりました。」




(世界はいままでこんなに追いつけないほど廻っていたか?なぁ、どうだろうなぁ?)