乱世の人魚 ○ 考えるのは得意ではなくて ○ 元親がの店を訪れてから3日が経った。 前と違うのは、が店に立っていないこと。 もちろん店に立っていないということは、店も開けていない。 「くそ・・・・なんで・・・・・・・・」 「無理しちゃ駄目ですよ!!今、熱あるんですから!!」 理由は、が熱を出してしまったこと。 風邪とかではなく、怪我からくる熱だ。 その日は、大丈夫だったものの翌日からは熱が続いてしまい、 店に立つこともままならない状態であった。 「これで3日も店開けてねぇんだ・・・・早く治さなきゃ・・・・」 本当に悔しそうな声を出しながらも、その顔は熱を帯びていて体調が悪いことを示していた。 「そう思うのでしたら、しっかりと休んでください。もうじき渡畝さんも来てくれるんですし。」 久那は冷やした手拭いをの額に置いて、少し出てきますねと部屋を出て行った。 それにしても暇だ。 どうせ海には行けはしないのだが、仕事すら出来ないとなると何もやることがない。 とにかく時間を持て余していた。 「ありえねぇ・・・・・・」 仕方なく不貞寝してやろうと、瞼を閉じた瞬間に合図なしで開かれる襖。 「な・・・誰?」 礼儀知らずの不届き者は誰だ?と思い、というよりも久那や渡畝では無い人がなぜ入ってくるのか?と 眉間に皺を寄せて襖のほうを見て、は動きを止めざる終えなかった。 「な・・・え・・・・?何でチカちゃん?」 「おぅ、見舞いに来たぜ」 「いやいや、見舞いに来たのはありがたいんだけどさ・・・なんで?」 見舞いに来て当たり前、というような素振りを見せる元親には以前も抱いた "城主=暇人"ということをもう一度思わなければいけなかった。 一般市民、しかも鍛冶屋の店主が熱を出したくらいで見舞いにくる城主があっていいだろうか? 否、普通ならありえない話だ。 それがたとえ命の恩人だったとしても。 「あ?お前が熱出したって聞いたからに決まってるじゃねぇか」 「一体どこの城主様が、鍛冶屋の店主の見舞いに行こうなんて考えるんだよ・・・」 「この長宗我部元親様だな。」 胸を張っていう元親を見ているとバカらしくなる。 何でアタシはこんな奴を助けちまったのか・・・つくづくアタシもバカになったと実感する。 「さん、渡畝さんが来ましたけどー?」 「ああ、入れていいよ。あと、お茶を4つ頼むよ。」 「4つ・・・?分かりました。」 明らかにおかしい数に久那は疑問を持ったらしいが、 気にせずお茶を入れに襖から離れ、代わりに渡畝が入ってきた。 「よぉ、渡畝。どこのどいつだい、城主様がこんなトコに来るのを認めた奴は。」 「は・・・?ってどうして元親様がこのような場所に?!」 「うん、驚くのはいいからさ・・・・」 どうやら騒がしくなりそうだが、時間を持て余すことはなさそうだ。 「で、俺はアンタに質問しなきゃいけねぇことがあるんだ。」 「何?」 「てめぇの名前だよ。」 「は?」 何を言っているんだ、とは目を丸くして元親を見る。 もちろん、渡畝や茶を運んできた久那も例外ではない。 「え、何・・・チカちゃん今までアタシの名前知らなかったの?」 「知らねぇ。」 はっきりと言い切る元親に笑わざるえなかった。 「あははははっ!!」 「てめっ、笑うなっての!!」 「だ、だってさ・・・・今更じゃないか・・・はははっ」 「お前は俺のこと知ってるからって、お前を知らねぇ俺に名乗らなかったのがいけねぇんだろ!!」 元親のその言葉には笑うことをぴたりと止め、元親をじっと見た。 そして出たのは乾いた笑い。 「・・・・・・・・・・・・・はは」 は辛そうに笑うと、天井を見上げした。 「ホント、忘れてんだなぁ・・・・・・・悪い、帰ってくれ。」 辛そうに笑った理由を知っている2人はあえて口出しをしなかった。 していけないと感じたのだ。 元親も、の言葉に込められた悲しそうな願いを聞いてか、帰ろうと立ち襖から一歩外へと足を出した。 「。アタシの名前はだよ。・・・・・・・・・ちょかべさん」 ピクリと足を止めそうになったが、元親はその出した足を戻すわけには行かないと、ゆっくりと部屋を出て行った。 (なぁ・・・・どうして思い出してくれないんだよ。それともアタシは思い出から消されてるのかい?)