○ 顔を出し始めたピンクの宝石 ○







元親がうっすらと青筋を浮き立たせてるのを知りながらも、は仕事を続ける。



「で、本当に用件はなんなのさ?」


国を統べる者に対するの対応が変わることも無く、元親は一つ溜息を吐き、

罰が悪そうに頭を掻きながら、視線を彷徨わせる。





「あのよ、今日は悪かったな。助けてもらったのにあんな態度でよ・・・・しかもお前、怪我したんだろ?」





何だ、そんなことでわざわざ城下におりてきたのか?

今のお殿様は暇人だねぇ






「気にしてないよ。あの辺は海に慣れてる船乗りでも泳ぎにくい場所なんだしさ、仕方ないさ。」











「え、お前迷惑かけたわけじゃないのか?」



意外だ。と言わんばかりに渡畝は目を見開く。


それだけ普段は自由気侭過ぎる、じゃじゃ馬なのだ。



「おいおい、アタシはそこまで迷惑かけねぇって。あー、渡畝。アンタ一旦外出て。」


苦笑いをしながらは、やっと直してた刀を置き顔を上げた。

渡畝も、何となくだが何か悟ったのか、何も言わず外へと出て行った。





























「で、一体・・・長宗我部元親様はこんな鍛冶屋に来ていいほど暇人なのかい?」


「あぁ?別に構わねぇけどよ・・・。それより、本当にすまなかった・・・」


項垂れる元親を軽く笑えば、むっと顔を顰める。


やっぱりアニキって呼ばれるだけあるじゃねぇか。

餓鬼らしさを忘れず海を愛し、時に戦で戦い仲間を守る。

元親と―・・・一緒に海に出てみたい。




「だから、いいってんだろ。アタシなんか気にしてたらいい事無くなるよ。」



「だが、アンタは女なんだぜ!?傷残ったら・・・」

「ぷ・・・あはははっ!!」




いきなりが声を上げて笑い出すことに元親は驚く。



は笑いを止めようとしているが、とまらずうっすらと涙が溜まっている。

少ししてやっと落ち着いたのか、お腹を押さえながら元親を見た。






「アタシは女には変わりはないけどさ、普通の女が一人で海にでると思うかい?

しかも、目的が宝探しさ。それに、仕事は機織とか可愛いもんじゃない、鍛冶屋だ。

一応アタシは武士でもあるんだぜ?二槍使いのな。

しかも、嫁ぐにも、ちぃとばかし歳をとっちまったんだよ。だから関係ないんだ」




まだ、くすくすと笑うの手は確かにそこらの女達とは違い、汚れていて掠り傷も多くある。



コイツが、もののふ・・・?

ありえねェだろ。






「じゃあ、謝るのはやめるか。代わりに何か望み言えよな。出来ることならしてやるぜ。」

「あー・・・いいのか?」

「おう。」



望みねぇ・・・と言いながら考えるの視線は泳いでいて見ていて面白かった。

その視線が止まったあら決まったのかと思ったが、なかなか言い出さない。


「あー」「うー」とか唸っていることから躊躇っているのか?











「じゃあさ、アタシも連れてってくれよ。チカちゃんの航海に、さ。」





「あァ?!いや、待てって!航海に着いてくるって危ねェっての!」

「望み、叶えてくれないなら別にいいさ。でも、それ以外はいらないからな。」



別に否定されたことに怒ることもなく、さらりと返した。



ただ、何となくの望みだからか対して強く望んだ訳じゃないからな。

でも少しショック。あの船からの飛び込みは楽しいからもう一度やりたかったな。





















「さーてと、そろそろお引取り願いましょうかねぇ。ここは既に閉まった店なんでねぇ。渡畝!」


目を細めて笑い、呼べば渡畝は久那と一緒に入ってきた。

チカちゃん連れ帰って。と渡畝に言えば、まずその言葉どうにかしろと注意をした後、2人は戻っていった。





「ねぇ、久那には昔話したっけ・・・?アタシがまだ10歳くらいのときのさ」

「いえ・・・特に聞いてませんよ。あ、唯一聞いたのはそのころには海が好きだったくらいです。」



「そっか。昔にね、さっき来た奴・・・チカちゃんにアタシ会ってるんだよ。向こうはキレイに忘れてくれてるみたいだけど」




昔を思い出すように、の眼ははるか遠くを見ていて、

その表情は忘れられたことを悲しむかのように儚く、懐かしい思い出に優しさが溢れていた。





「きっと、さんも長宗我部様も変わりないのでしょうね。」

「そう思う?」

「?はい。」


久那が言った言葉ににんまりと笑みを浮かべ、聞きなおす。

それが肯定されると、思い出しているのかくすくすと笑った。




「それがさぁ、アイツね。戦うのが嫌だからって女の格好してたんだぜ?姫若子って言われてたんだ。」

「あの、長宗我部様がですか?」

「ああ、大層可愛らしい姿だったね。」

驚く久那と、元親を話題にした話はもう暫く続いた。


























「でよぉ、テメェとアイツはどういう関係なんだ?」



城に戻る最中で元親は渡畝に問うた。

それがただの好奇心なのか、別の意味なのかは元親自身にも分からなかったが、

ただ、聞きたくなったのだ。







「私の武道の師であり、幼馴染のような奴ですよ。父達が仲良かったんです。」


こいつは・・・昔のアイツを知ってるのか。



「でも、昔からじゃじゃ馬なのは変わりないですよ・・・本当に・・・」





全て見てきたのか?渡畝、テメェは・・・あいつの何をどこまで知ってるんだ?

その事が少し苛立たしく思えた。




元親がこの恋心にまだ気づくことはない。







昔見た人魚を忘れ、王子はまた人魚に恋をする。

人魚は今も昔も王子のことを忘れないけれど、恋はしない・・・






(あ・・・くそっ!またアイツの名前聞いてねェじゃねぇか!!)