乱世の人魚 ○ 荒くれ者と殿 ○ 元親の船から飛び降り泳いでいつもの浜までは戻ってきた。 だけど、切れた傷に塩水だったのは半端なく痛い。 お付きの仕事もやらせてる久那が迎えに来るの、どのくらいだったっけ・・・? 「仕方ないか・・・帰ろ。」 普段は頭にまく布を止血のために足に結びつけ、家のほうへと向かった。 城下の中を歩いてるときは視線が痛かった。 髪が薄紫というだけで視線を浴びるが、今日は違う。 血を流し、染みを作りながら家に向かっているから視線を浴びている。 「さん?!」 ふらふらと家に向かって歩いていると、前方に久那の姿が見えた。 久那は帰ってくるには早いと驚いていたが、怪我を見るとこれでもか、というほどに目を見開いた。 「久那いいとこに来たね。先に帰って手当ての用意しといてくれ。」 「は、はい!」 が言えば久那はパタパタと走って家へと向かった。 家は、亡き父から受け継いだ鍛冶屋をしているため人の出入りはそこそこ多い。 しかし運がいいことにが帰ったときは、久那がいるだけだった。 「さん!早くこちらに!!」 久那に言われるまま、ゆっくりと座り久那の手当てを受ける。 改めて傷口みるときもちわるいな・・・と思いつつも、 久那は何も言わず酒で消毒しながらもパックリと切れた足を縫い合わせていく。 さすが、医者の娘だっただけはあるな。と手当てする久那をみて思う。 真新しい手拭いをあて、包帯を巻くと久那は笑いかけた。 「なんとか大丈夫ですよ。まだ痛みは残るでしょうが・・・傷が塞がるまでは海、入っちゃ駄目ですからね?」 「そう、ありがとな。・・・海入れないのは仕方ないさ。今日の仕事は、もうきてる?」 「2本来てます。」 「よし、午前受けた仕事2本やるかね・・・久那は店頼むよ。」 「わかりました。」 店を頼むと、鍛冶場のある裏に移動する。 途中、自室により頭に巻く布と、腕を守るための布をつけた。 鍛冶場に着いて荷物を下ろし、今度は諸肌を脱いだ。 いくら中に他のものを着ているとしても、女子としてはありえぬ格好だ。と言われるが、気にならない。 アタシはアタシの好きな格好で過ごすのが一番だから。 城では元親が帰るなり、少しばかし騒がしくなっていた。 「誰もあの女のこと知ってる奴はいねぇのか?」 そう、元親は帰ってきたと思えば薄紫の髪をした女を知らないか。と聞きまわってるらしい。 「・・・・・ふぅ」 「どうした、渡畝?」 「ちょっとめんどくさい。」 「は?」 夕刻になったころ、元親を見かけた家臣、渡畝が呟いた。 なんとなく元親が探してる人物が分かってしまった渡畝は面倒だと言わんばかりに大きな溜息をつく。 共に仕事をしていた男と別れ、渡畝は城下へと向かった。 本当にアイツは何をやらかしたんだか・・・ 「アニキ!目撃した人は見つけやしたぜ!!」 「おう!で、誰だ?」 「名前は分からないんですが、渡畝の奴と知り合いらしいですぜ。城下を一緒に歩いていたのを目撃した兵が言ってやした」 渡畝ってあのそこそこ武術に長けてた奴だったか? 「今、渡畝はどこにいる。」 「さぁ・・・」 「渡畝はさっき城下に向かったぜ、アニキ。めんどくさいとか言いながら出てったんだ。」 居場所が分からないと言う元親に渡畝と共にいた男は言った。 「よし、俺も城下行ってくるわ」 誰にも有無を言わそうとする隙を与えず、元親は城を出て行った。 「。」 日がほぼ沈んだ頃、受けた仕事をこなしていると店の暖簾の向こうで聞きなれた声がした。 「あれ、今日の仕事時間は終わったんだけど・・・渡畝・・・何、急な用事かい?今、ちぃとばかし忙しいんだ。」 暖簾をくぐり出てみれば、常連の渡畝の姿。 しかし、何か凄くめんどくさそうな声を出している。 「、お前何やった?元親様が探してたぞ。お前・・・城に会いに来い。」 「え?あの銀髪と会えって?無理、んな時間ねぇって。今日は多く頼まれてんだから。」 コイツは相変わらず、だ。 お偉い様よりも自分の用事を取るし・・・荒くれ者だ。 「ま、入ってけよな。仕事しながら話そうや。」 「・・・ああ」 仕事に戻るを見て、また溜息をつく。 渡畝もに続いて家の中へと入っていった。 「で、お前はいつアニ・・・元親様にお会いしたんだ?」 「あー、いつも通り「海でだ。」」 仕事しながらも、今日あった事を話そうとしたの言葉を簡単に遮りまとめたのは、元親だった。 その後ろでは、久那が困ったようにを見ている。 予想では久那は止めようとしたのに、元親は無理矢理入ってきたのだろう。 「元親様!?」 「あ、元、姫若子のチカちゃんじゃねぇか。久那、下がっていいよ。」 驚きを隠せない渡畝とは逆にこの状態を楽しんでいるのか、はまたも姫若子と呼ぶ。 しかも友達のようにチカちゃんなんて呼び出した。 「おい!何て口を聞いてるんだよ!」 「いいじゃねぇか、減るもんでもないし。で、わざわざ来てご苦労様。何用だい?アタシは用無いから手短に頼むよ。」 いつまでも経っても、敬語を使わないに渡畝は頭を抱えたくなった。 ありえねぇ!何で自分の国の殿に会ってんのにタメでここまで堂々とできるのかわかんねぇよ! 渡畝は元親を気にかけず仕事をしていると、姫若子といわれ、少なからず怒りのオーラを醸し出す元親を見て 2人に気付かれないような溜息をついた。 (口の悪い女だな。だけどよ、テメェとは「初めまして」な感じがしねぇんだ)