○ 人魚姫と遭遇 ○







空を見上げれば快晴。波はそこそこ高いけど、あたしには問題ない。

「今日も行くかー。お宝見つかりますようにっと」

大きく体を伸ばし海の中に身を滑り込ませた。














「アニキー!」

舵を部下に任して、気持ちよく海を眺めてたら邪魔するかのように呼ばれた。


別にそれで怒るほど心はせまくねぇがな。



「おう、どうした!」

「前、人魚について話してくれたじゃないっすか?マジで人魚っぽいのが居るんですが」

「は?」

「とりあえず、見てくださいって!」




確かに俺は外国の話で人魚の話をしたことがある。


だが、あれは空想のはずだろ?

人魚なんているわけがねぇ。





部下が指した場所を見てると、水面から何かが顔を出した。

こちらに背を向けてるからわからねぇが、薄紫の髪をした奴だ。

その薄紫の髪をした奴は海を泳いでいて、その姿がとても綺麗だった。




「人間・・・か?いや、この辺は泳ぐに適さねぇ・・・」



じっと見ていると不意に船が大きく揺れた。

その瞬間に隣にいた奴が海に放り出された。




「くそ!」

助けるために自分も甲板から飛び出し、その部下の腕を掴み近くにあった綱を握った。

辛うじて海に落ちることは無かったものの、この綱も危ういことがわかった。

大人2人分の重さを耐えるのは難しいだろう。

切れてしまうのも時間の問題だ。










「テメェら!今からこいつ投げるから受け止めろよ!!」

「わかりやした!!」


思いっきり腕でつかんでいる部下を上の甲板目掛けて投げた。

上手くいき、なんとか受け止めてもらえているのを見て安堵したが、それも一瞬。

投げた反動が綱に伝わり、ブチブチと綱が切れていった。




「アニキ!!」



名前を呼ばれたが、もう掴む場所がねぇ。

くそ、今日は波が高かったしこの辺は流れが少し速ぇ、しかも岩が多かった筈だ。

こんなとこで俺は死ぬのか?

四国の鬼と言われたのに、ここで終わりなのか?


















今日は珍しくいつもとは違う方へ宝を探しに来たら、どっかの船が見えた。

この辺だと・・・長宗我部か毛利の船だろう。

どこの船か考えるのもそこそこに止め、宝を探すのに集中していると背を向けてた船から何か騒ぎ声が聞こえた。




「何かあったのか?」


船の方を向けば綱に掴まってる大人が2人。



大方、落ちそうな奴を助けてああなったんだろうな。

その光景を見てると、銀髪の奴がもう一人と放り投げ一人は助かった。

しかし、投げた奴は綱が切れ海に落ちるのが見えた。




「あー・・・いくら船乗りとかでもここの流れは厳しいかねぇ・・・波も高いし。しゃあねぇ、助けるか」

宝を探すのを止め、男が落ちたと思われる方へと泳いでいった。





















水中で男を見つけたが、面倒なことになっている。

運悪く、岩の間に足が挟まっているのだ。



外れてくれよっ!?


はその岩を蹴りながら、男を引っ張る。



何度かくり返してるうちにやっと挟まった足は取れた。が、自分の足が切れていることに気付いた。


ホント、めんどくせぇ・・・




「オマエら、引き上げるための縄持って来い!まだコイツは生きてる!」



水面から顔を出し、船の甲板で心配そうにしてる奴らに引き上げてもらうための縄を用意させる。

生きてる事が分かると、甲板の奴らは動き出し縄を投げてくれた。













何とか引き上げてもらうと、甲板に居た男らは銀髪の男に近寄って声を掛けていた。



ここまで心配されるなんぞ一体コイツは誰なんだ?


「おい、お前。一つ聞きたいんだが・・・そいつ誰?」




適当に甲板にある手すりに腰かけ、近くの奴に問うと男は不思議そうな顔をした。


「知らねぇのか!?アニキは四国の鬼って言われる・・・・」









「長宗我部元親・・・か。ふうん、コイツが・・・」


こいつが・・・


は元親を見て言えば、呼び捨てにしたのが気にいらなかったのか男は眉間に皺を寄せた。


「てめっ・・・アニキを呼び捨てに・・・!」










今にもかかってきそうな勢いだったが、元親がゴホッと水を吐き出し意識を取り戻したのを見るとそちらに行ってしまった。








「目、覚ましたみたいだねぇ。」



「誰だ・・・てめぇ」


知らない女が船に乗っているのが気に入らなかったのか、元親はを睨みながら上半身を起こした。









「おお、助けた奴にそんな態度かい?ま、いいさ。意識を取り戻したならあたしは帰らせてもらうよ。」


は手すりに足をかけ、飛び込もうとする。

「お、おい!待てって!!」





「じゃあな、元、姫若子ちゃんよ。」


は元親に向けて不敵な笑みを浮かべ、海へ飛び込んだ。





元親もその部下も驚き、海を見下ろす。

しかしは、一般人なら死ぬ可能性のあることを簡単に成し遂げ、悠々と海を泳いでいた。




「何者だよ、アイツ・・・しかも昔の名前で・・・」




だが、助けられたときぼんやりと見たのが、部下が言った人魚に似た姿と懐かしい気持ちだった。




元親は名前も知らない女を見ながら、手すりに手をついた。

が、そこで一つの違和感があった。

視線を下げれば、紅があったのだ。

そこはちょうど先ほどが立っていた場所で、足をかけた場所。

床の方へとさらに視線を落とせばそこにも紅い水溜りができていた。







「アイツ・・・まさか」



確か落ちたときに俺は岩に足が挟まって・・・

その岩をアイツは素足で・・・?



もし、そうだったとしたらお礼の一つも言ってないのはヤバイ。

「おめぇら!今から城に戻んぞ!!さっきの女のことを調べる!」





(てめぇにチョットだけ興味もった。てめぇは人間の姿をした人魚なのか?)