*彼の主と私の領主様* 私が城に連れてこられて既に3日が経っていた。 一度、武田信玄様とすれ違った時は緊張した。 あの雰囲気にはついていけそうに無い(と言ってもついていく必要も無いけど) その後は、真田様にお会いして・・・ 甘味について一方的な話を聞いた。 凄い勢いで語ってくださったけれど、甘味作りに関わっていた者としては嬉しい。 由乃さんも一度、顔を見せに来てくれて私の甘味作りに使う道具を届けてくれた。 どうやら佐助様は私がここで過ごすと言ったらしく、由乃さんもそれを承諾したらしい。 でも・・・この食事といい、着物といい・・・いろいろといいのだろうか? 「殿ーっ!!」 スッパァァンッ!といい音を立てて襖を開けたのは真田様だった。 「ど、どうされました?」 「お館様が呼んでいるでござるよ!殿と話したいと申されていた。」 あ、あの武田様と話すって・・・嘘だよね?! 私のいる甲斐の一番偉い方なのに、こんな町人と何を会談される気ですか?! 「え、あの・・・」 「さぁ、行くでござるよー」 幸村はの腕を取り、語尾に「♪」が付きそうな感じでウキウキだった。 武田様の部屋に近づくたび、少しずつ緊張して体が強張っていく。 「お館様ーっ!殿を連れてきたでござるよ!!」 「おぉ、待っておったぞ。」 幸村はそのまま入って行くが、実際がそれをやってはいけない。 礼も無しに入るなどありえないのだ。 だが、腕を掴まれていては礼すら出来ない。 「し、失礼します・・・」と軽く頭を下げて幸村と共に信玄の前で止まった。 「殿、あまり堅くならなくてよい。お主の話が聞きたいだけよ。」 「は、はい。」 堅くなるなと言われても、無理がある。 信玄は武士独特の強い雰囲気を持った人で、私の領主様なのだから。 「さて、お主は甘味屋に居たのだったな?」 「はい、赤鳳と言う店でございます。」 「そこでの話をしてくれんかのぉ。」 「はい!!」 私は、赤鳳でやってきたことの話をした。 甘味の話、客の話。そして由乃さんの話も 話の途中で真田様や武田様が相槌を打ってくださるから、凄く話しやすかった。 「と、言うわけで私は団子を作らせていただいてました。」 そして、話が終わる頃には緊張も無くなっていて普通に話せるようになっていた。 「ふむ、その団子を食べてみたいのぉ」 「殿が作る団子は絶品ですぞ!某が保証する!」 「調理場がお借りできれば、作れますよ。」 「では後で調理場に案内させようぞ。」 この後もいろんな話をしていたが、佐助様が姿を見せることは無かった。 「ところで殿。佐助はまだ・・・その・・・伝えておらぬのか?」 急に真田様が頬を赤く染めて聞いてきたが、何の事だろう? 「?何をですか?」 「はっはっはっ、この様子では、まだ伝えておらぬようだな。」 真田様も武田様も何のことを言っているか検討がつかなかった。 が首を傾げつつも考えていると、信玄は笑うのをやめた。 「まぁ気にしなくてもよい。これは佐助の問題だからのぉ。」 意味が分からぬままだったが、先ほど調理場に案内すると言って呼んだ女中が呼びに来たので 気にしないで団子を作るために調理場へと向かった。 城の調理場、というだけあって赤鳳よりもかなり大きく呆然としたが、直ぐに団子作りに取り掛かった。 武田様がどのくらい食べるかなんて、検討がつかなかったが、真田様が食べるだろうと思い多めにつくり皿にのせる。 「よし、こんな感じかな・・・」 団子を完成させ、武田様たちに持っていく。 部屋の前についたものの、何か緊張してしまう。 先ほどとは違い、一人だからなのかもしれないが・・・ 「武田様・・・失礼します。団子をお持ちしました。」 そっと襖を開けると、真田様がピクッと反応してを見る。 正確には、が手に持つ団子を、だ。 おずおずと中に入り、先ほど座っていた場所に座り、顔を上げては動きを止めた。 幸村が目を輝かせながら、尾を振る犬みたいだったからだ。 い、犬・・・?で、でも・・・そんな訳無いよね・・・ 脳内に浮かんだ事を無かった事にし、2人に団子を出した。 「赤鳳の団子です。多分、数日作ってないだけで味は変わらないと思いますが・・・」 団子に手にとる2人を不安そうに見る。 「美味しいでござるよ!殿!」 「うむ。結構うまいではないか。」 「ほ、ホントですか!?良かったです!!」 不安な気持ちも、2人の美味しいの一言で消された。 よかった。まだ私にはできることがあった。 団子は食べる2人を見ていて嬉しい反面、なにか寂しかった。 「あの・・・・佐助様ってどうしたんですか?ここ数日見かけないんですけど・・・」 「佐助なら、偵察に行っているぞ?」 「そうなんですか。」 数日話してないだけで、寂しいだなんてどうかしてるかもしれない。 話し相手になってくれる真田様もいて、女中さんがいるのに・・・足りないんです。 アナタが話してくれないから、アナタがいないだけなのに。 「帰ってこれば、お団子がまだあるんですけどね・・・」 皿には後半分くらいの団子。 これを一本でも食べてくれないかな。 と早く帰ってくることを願った。 貴方様の主も、私の領主様も、城の女中さん方もお優しい方です。 ですが、貴方がくれるような安心する笑顔は無いのです。 (甘い華が八輪...)