*帰る場所は手が届く場所でありますように* 甲斐に向かうために佐助はを抱いたまま走っていた。 も腕が痛く、動けそうに無いから大人しく佐助に抱かれている。 しかし、あまりにも沈黙が続くのでは声を出したかった。 「・・・・・佐助様はどうしてあの場所におられたのですか?」 ちゃんをとられたくなかったから。なんては言えない。 が自分を好きという自身が殆ど無かったから。 それで口をきいてもらえなくなるのが嫌だから。 「んー・・・団子に入ってた手紙にさ、本当は嫁ぎたくなんか無いって感じだったからぶち壊そうかなってね」 「・・・・して」 小さく零した言葉は風に流され佐助には届かない。 「何?」 「どうして、あの時出てきたの?!あと少しで・・・この手で復讐できたのに!」 涙目になりながらも、自分を睨むの姿には一瞬困った。 これで・・・自分もに恨まれてしまったのではないかと。 「じゃあさ、そのまま菊瀬を殺せたとして他の奴も一人で出来たの?」 「・・・・」 答えられなかった。 倒せるかと言ったら答えは否だった。 「だけど・・・私は、あの場で菊瀬を殺し、自分も死ぬ覚悟だったんだよ・・・・・」 弱弱しく零した言葉に佐助の動きは止まる。 「何言ってるの?ちゃんはただの町人、武士や忍でもないのに戦って死ぬ必要は無いでしょ」 その言葉は冷たく吐き捨てるように言われた。 合わせていた目にも怒りが少し感じ取れて、つい目を逸らしてしまった。 その後話すことなく、佐助は上田城へと着き、中へと進んでいく。 途中すれ違う人に不思議な目で見られたりもした。 佐助はそれを気にすることなどなく、出会った女中に怪我の手当てを頼んでいた。 どこか分からないが、広めの部屋にを下ろすと佐助はその部屋を出て行った。 閉められた襖の方から足音がする。 先ほどの女中が手当てをしに来たのか。 「様、失礼します。」 スッと襖を開け、部屋に入るとの横に座った。 「多少痛むとは思いますが、剥がしますね。」 女中は着物が乾いた血でくっついているのを少しずつ剥がした。 傷口からは、蓋がなくなった所為で血がまた流れ出したが、女中はすばやく処置をしてくれた。 「慣れてる・・・?」 「そう、ですね。戦後には傷ついた兵はいくらでもいますので・・・」 「そうですか・・・」 「さ、終わりましたよ。暫くは無茶して動かないでくださいね?結構血を流されたのでしょう?」 そう言われて着物を見れば染みはかなりの範囲を紅く染めていた。 折角の着物だが、もう着れないだろう。 「もう・・・これ着れないかな・・・」 「血はなかなか落ちませんからね・・・着替えはもう少し待ってくださいね。今、他の者が持ってきますので。」 あの時以上に笑えてないことが自分でも分かった きっと、泣きそうな笑いに近かったかもしれない。 「それでは、私はこれで。」 お辞儀をして出て行こうとしたので、私もお辞儀をした。 「手当て、ありがとうございました。」 女中はにっこりと微笑んで部屋を後にした。 着物は女中が出て行って、すぐに持ってきてくれたので着替えようと思った。 が、どう見ても高価なものである。 普通じゃ高くて着れないような着物を着てしまっていいのだろうか? 「これ・・・着ちゃっていいんですか?高そうだけど・・・」 「お気にせずに着てくださいまし。」 無垢な笑顔で言われては着るしかない。 「・・・お言葉に甘えさせていただきます・・・」 着物を変えた後、外に出てみれば既に日の入りは近く空は茜色に染まっていた 「お城の方には悪いけど・・・帰らなきゃ・・・」 「何処に?」 「それは・・・」 一人で居たはずなのに、と声がするほうを向けば佐助が立っていた。 「もう少し、ここに居なよ。」 お願いだから、首を横に振らないで欲しい。 直ぐに手が届く場所に居て欲しいのは、俺様だけなのかな? 「ですが・・・・・・武田様に悪うございます。」 「別にそのくらい気にしないと思うけどな。ねえ、ここに居なよ」 は戸惑いながらもゆっくり頷いた。 「でも・・・一度は由乃さんに連絡しないと・・・」 「その辺は任しといてよ。俺様が責任持って伝えとくから。」 「・・・お願いします。」 「・・・今日はさ、ごめんね。怪我。」 「いいえ・・・ありがとうございました。命を捨ててはいけませんもんね・・・」 辛そうに少しだけ微笑んだは今にも消えそうなくらい、儚い笑みを浮かべていた。 私は救われたのです。愛しい人の手によって でも私はここに居ていい存在でしょうか。 (甘い華が七輪...)