*聞こえた声は嘘か真か* 「・・・・・・・・・・・・ゃんっ!!」 何故か、居ない佐助様の声が聞こえたような気がした。 今になって愛する人の声を聞くなんてありえない。きっと・・・これは幻聴。 菊瀬家の屋敷に着いてしまった。 逃げ場はもうない。 屋敷に着いて、使いの一人は馬を置きに行き、一人は睦正に報告に行く、と屋敷の中に入っていった。 入れ替わりで、女中の人がパタパタと走ってきた。 「それでは様、睦正様の元へ案内します。」 「お願いします。」 私は上手く笑えているだろうか? 嫌っていることがばれないように・・・しっかりとしなければいけないんだ。 どうか、睦正が私のことを覚えていませんように・・・ 「睦正様、失礼します。」 「入っていいぞ。」 「はい。様、部屋には睦正様しかいらっしゃらないので、あまり堅くならなくてもよろしいですよ。」 緊張しているわけではないけれど、私のことを覚えていたら・・・と不安なに気付いたのか女中は柔らかく笑った。 お陰で、少しだけ楽になれたかもしれない。 「ありがとう。」 スッ、と襖を開けるとそこには畳が敷き詰められた結構大きな部屋。 その中心に睦正は座っていた。 「殿、こちらへ。」 「はい。」 入るために頭を下げ、睦正の正面に座る。 「と申します。よしなに。」 「うむ。殿、一つお聞きしてもよろしいか?」 「・・・・はい。」 いい気がしない。 この場から逃げ出したいと思えた。 「やっと、見つけた・・・」 佐助は急いで走ってなんとかに追いついたのだが、無駄に使いの者が警戒していて近づけなかった。 攻撃してを巻き込むわけにはいかないから。 屋敷内では、天井裏に忍び込み達のいる部屋の上で話を聞いていた。 が一人になったら助けるつもりで。 「俺の間違いかもしれぬから、あまり深く気にするでないぞ?」 「わかりました。」 どうか、この質問が過去のことでありませんように。 そう願ったものの誰かがそれを聞き届ける事はなく、あっさりと願いは崩された。 「殿は越後の・・・甲斐寄りの小さな集落の出身ではあらぬか?昔、そこに似たような子が居たのだが・・・」 「!!・・・・・・」 やっぱり覚えていた。 忘れていたら・・・我慢しようと思ったのに。 片手を床に向け、袖口に入れてある懐刀に手を触れさせる。 「えぇ、私は確かに越後出身です。」 「やはり・・・そうだったのだな」 睦正は目を伏せ、申し訳なさそうにそう言った。 しかし、にはその行動が許せなかった。 我慢がきかない。 感情が制御できずに溢れ出す。 「だったら、何だって言うんですか!? 貴方が、貴方達が来なければ・・・私は幸せだったのに!! 今更、謝ろうとでも思ったんですか!? 幾ら貴方が申し訳ないと思っても・・・私の父や母は帰ってこない!! 私の目の前で両親を殺して、私を絶望に追い詰めたのに・・・ 今度は私を傍に置こうなんて許せない!!」 袖から懐刀を取り出し、睦正に向け振った。 睦正は近くに武器を置いてなかったし、向かい合って座っていたため手が届く位置。 振れば確実に睦正に入るはずだった、のにキィンと音を立て弾かれた。 「ちゃん、何、そんなに危ないもの振り回してるの?」 「!!」 佐助はの悲痛な叫びで初めてこのことを知った。 この事実を知ったら菊瀬が許せなくなり、殺してやろうかと思いクナイを出した。 菊瀬を捉えようとした目が捉えたのは、紅に手を染めようとするの姿。 彼女が染まるなんて許せない。 ちゃんが手を染めるなら、その染めるだけのものを俺様が壊してあげるから だから― 「駄目だよ。人の標的とるなんてさ。さ、目を瞑ってなよ」 ―こいつは俺様が殺す が目を閉じたのを確認すると、菊瀬を見た。・・・睨んだ。というほうが合う。 「話は聞かせてもらったよ。お前なんかにちゃんは勿体無いっての。」 「な、何奴!!曲者を捕らえよ!!」 怯えた睦正は家臣に佐助を捉えるように命じ、それに従って人は集まってくる。 皆それぞれ武器を構え、佐助に向き合った。 目を瞑っていても、足音で攻撃が繰り広げられているのがわかる。 そして―・・・人が倒れていくのも分かった。 音が大分止んだころには回りは血の臭いが漂っていた 「ちゃん!!」 キンッという音と共に佐助の声が響いた。 目を開けてみれば、正面から何か飛んでくる。 それは弾かれた佐助のクナイだった。 咄嗟に体を捻り避けようと試みたが、避けきれず右腕を切っていった。 「っ・・・・・」 傷は着物に赤い染みを作り、幅を広めていく その状態に理解できずにいると、佐助が寄ってきて肩にきつく布をしばり、止血をする。 まだ血は止まっていないが、じき止まるだろう。 佐助はを横抱きにして屋敷を出た。 「急いで、甲斐に戻るから。」 そう告げると佐助は走り出した。 聞こえた声は本物だった。 ここまでしてくれるのが、凄く嬉しかった。 (甘い華が六輪...)