*離さなず奪えばよかった* 今日、日が昇ったらこの場所とはさよならします。 それが私の運命らしいから、悲しくても笑顔で由乃さんと別れよう。 はいつも以上に早く起きた。 今日、越後に向かわなければいけないから。 その迎えが来るまでに着飾る必要があったから。 いつもより綺麗で高価な着物を身に纏い、紅もきちんして、髪を結い由乃さんがくれた簪をつける。 「由乃さん、準備終わりました。」 「はいよ。って、あれまぁ、・・・あんた随分変わるもんだねぇ。凄く綺麗だよ。」 部屋の外で他の物を準備していた由乃に声をかけて由乃が入ってくると目を丸くした。 は元がいいが、飾らないためあまり目立ちはしない。 そんなが飾り立てれば、そこらの遊女や可愛いと言われる女子など目では無い。 「そんなことないですよ。そちらの準備はできました?」 「あぁ、必要なものは入れといたよ。・・・・本当にいいんだね?」 由乃が最後にもう一度確認する。 これが正真正銘、最後の質問で、最後の回答なんだろう。 「何度も言ってるじゃないですか。私はお話を受けたんです。迎えはどの位でしたっけ?」 「日の出位だよ。」 「じゃあ、そろそろですね。そうだ、由乃さん。もし今日佐助様が来たら・・・あの包みを渡してください。中にお団子20本入ってるんで。」 「わかったよ。他の人には断っておくね。」 「よろしくお願いします。・・・このことは言っちゃ駄目ですからね?」 「もちろんだよ。」 と由乃はゆっくりと立ち上がり、迎えを待つために部屋の外にでる。 鳥が飛び始めたということはそろそろ日の出なのだろう。 外に出て数分経ったころに迎えはやってきた。 「菊瀬家の者ですか?」 「はい、様をお迎えに」 「そうですか、では早く行きましょう?人が増える前に此処を出たいのです。」 「わかりました。」 迎えの者が荷物を積む間に、由乃とのおわかれをしなきゃいけない。 「由乃さん・・・私が一人になってから・・・面倒をみてくれて、仕事を与えてくれてありがとうございました。 もし、またお会いできたら・・・ゆっくりとお茶をしたいですね。さようなら・・・由乃さん」 私が一言、一言発する度に由乃は涙を零した。 「・・・っ!こっちこそ・・・あんたのお陰でいい店になったんだよっ・・・ありがとう。いつでも来ていいからね!」 ありがとう・・・ 由乃さんが居たからここまでこれたんだもの。 「・・・はい!」 涙目で声も震えていたけれど、出来るだけ明るく返事をした。 「じゃあ・・・由乃さん・・・行くね?」 「あぁ、後のことは任しとき。」 「ふふ、頼りにしてます。」 由乃との別れを済ませ、は使いの者と一緒に城下を後にした。 正午過ぎに旦那はまたいきなり団子が食べたいと言い出して、今は店の前にいるんだけど・・・ 昨日、ちゃんが泣いてた事を思うと入りにくかった。 いや、でも入らないと買えないしね。 意を決して暖簾をくぐった佐助だったが、そこにはまたの姿は無かった。 他の女子に聞いてもわからないと言われた。 しかも団子が無いって? 「あら、佐助様ですよね?ちゃんから聞いてますよ。待ってください、由乃さん呼びますので。」 「あ、うん。」 厨房から出てきた女子は佐助を見るなり、そう言って厨房へ戻っていった。 その厨房との境を見ていると由乃が一つの包みを持ってきた。 「佐助様、これはからの預かりものです。お団子だそうですよ。」 「預かりもの?ちゃんはいないの?」 その言葉に由乃は少し目を伏せたが、困ったように笑った。 「そのことは何も言えないんですよ。ちょっと秘密です。きっと・・・は団子で何か伝えてくれると信じてるので」 「じゃあ、俺様もちょっと信じちゃおうかな。」 「きっと、も喜びます。」 「だと、いいよねぇ。じゃあ、お勘定。今日は受け取ってね」 「はい、わかりました。」 佐助は勘定を渡すと、入ってきた暖簾をくぐり出て城へ急ごうと決めた。 この団子に託されてるかもしれない事を知りたかった。 それが、昨日泣いていた理由かもしれないから。 忍風情が一人の女子を気にかけるなど馬鹿だと思う。 ホント、何でちゃんのことここまで気にしてるんだろ・・・ 「だーんなっ!今日はお団子だよ?」 「本当か!!?」 「うん。ほら、ね?」 城について報告すれば、主は犬だ。 幸村の隣に行き、包みを開けば団子と1つの文があった。 「?この文は佐助あてのようだぞ?」 「え?俺様に?」 「あぁ、佐助様へ。と書かれておる」 「そう、ありがとね。」 幸村が団子を食べ始める中、佐助はその文を開いた。 その内容に驚かされることになるとは知らずに。 『佐助様へ。 これを見てらっしゃるということは、由乃さんからお団子受け取ってくださったんですね? 昨日、無かったので今日は20本だけお作りしたんですよ? 佐助様も美味しいって言ってくださったんですから。 佐助様は・・・今日も来てくださったけど私は居なかったでしょうね。 もう・・・私が佐助様に会うことは無いと思います。 昨日、顔をみてさよならを言えなくてごめんなさい。 顔を見て言ってしまったら余計に泣きそうだったから・・・ 私がもう会えない理由は嫁ぐことになったからなんです。 菊瀬睦正様・・・武田様の敵、上杉様の下にいる武将なんですけれど・・・知っていらっしゃるでしょうか? その方のトコへ行く事になりました。 昨日泣いていた理由もこれなんですよ・・・ 実際は・・・好きな人と生涯を過ごしたかったんですけれどね・・・ って佐助様に言ってもどうしようもないんですけれど。 なので・・・もうお会い出来ないことが残念です・・・ 勝手に居なくなってごめんなさい、幸村様にもお団子はもう無い事をお伝えください。 本当にごめんなさい、そしてさようなら。 』 文を読み終えるなり佐助は襖のほうに歩き開けた。 「旦那、俺様ちょーっと用事出来ちゃったからさ、このあと稽古付き合えなくなっちゃった。」 「?どうかしたのか?」 「じゃあ、行って来るね。」 「佐助っ?!」 幸村の質問に答えることなく、佐助は城を飛び出した。 森を走りながら佐助は呟く。 「どうしてさ、どうして俺様に言ってもどうしようもないのさ。」 どうして俺様を頼ってはくれなかった? ねぇ、好きな人って誰? 俺様に言ってもどうしようもないってことは好きな人は俺様じゃないってことなの? 「こんな事なら・・・あの時全部奪ってこればよかった」 昨日、が泣いてたときに・・・ 涙も全部・・・自分のトコに奪ってくるべきだったんだよ 団子と共にあった文から伝えられたのは残酷な事実 もう会えないなんて俺様が許さない。 (甘い華が五輪...)