*君の全てが奪えることができたらいいのに* 店を出てみても、この城下町の賑わいが変わることはなくて 小さな私の醜い感情を照らし出すかのように空は快晴でした。 は店を出て、城下町を抜けた先にある場所へと向かっていた。 悲しいことや、辛い事があれば必ずといえる程そこへ行っていた。 でも、それも今日が最後 「寂しいな・・・ここ好きだったのに。」 目的地に着いてぽつりと言葉を零した。 が向かっていたのは池である。 自然の中に透き通った水の池があることを知っているものは少なく、 ここに来る人も殆どいないということで、のお気に入りの場所になった。 池のふちに桟橋がかけてあるので、小袖の裾をめくり腰掛けて足を池に入れた。 「なんで・・・菊瀬なんだろう・・・」 嫁ぐ相手となった菊瀬家は謙信公の下につく、結構有名な家である。 普通なら喜べるだろう。 もちろんも菊瀬以外なら少しは喜べただろう。 でも菊瀬睦正だけは嫌だった。 ふぅ、と溜息をつき空を見上げてみるものの、先ほどと変わらず晴れ渡っている。 「佐助様とも・・・お別れですね・・・・・・今日はもう会うこと無いでしょうし・・・さよならも言えなかった。」 そう思えば思うほど悲しくなって景色が霞む。 ついに耐え切れなくなり、顔を俯かせて涙を零した。 「あれ?今日はちゃん居ないんだね」 いつも通り、幸村の団子を買いに来た佐助は店にの姿が無い事に気付き、店主の由乃に話しかけた。 「は・・・今日お休みなんだ。悪いね・・・団子もあの子しかできなくてさ。代わりに他の甘味にしとくれよ、おまけしとくからさ」 「じゃあ、その饅頭で」 「まいど。っても今日はお金要らないよ。」 「え?」 一体何があったんだろうか? ちゃんも居なくて、お金も要らないなんて。 「がお世話になった方だからね。さぁさぁ、この饅頭を待ってる方に急いで持っていっておやり」 「ありがと」 「佐助様!」 店を出ようとしたけど呼び止められ振り向く。 そこには、悲しそうな辛そうな顔をした由乃の姿があった 「もし、もしでいいんだ。時間があるのなら・・・この城下町を向けたとこにある池に寄っておくれ!!」 必死になって言う由乃からは、まるで"あんたじゃないといけない"って感じがした。 「いいよ。時間あるしさ。」 「ありがとう・・・」 佐助は軽く笑い、店を後にした 「あの子を・・・救ってやっておくれ・・・」 店を出た佐助の後姿を見て由乃は願った。 どうか・・・が悲しい道を生きなくて済みますようにと 佐助は城下町を抜けた先に池があることは知っている。 だけど、そこに何があるのかは分からない。 城下町を抜けた先の池のふちに座るを見つけて驚いた。 がここにいること そして何故か泣いていた。 「ちゃん?」 そのまま、そってしておこうかと思ったけどほかっておくなんてできなかった。 後ろから声をかければ、の肩はピクッっと反応した。 でも俯いた顔を上げようとしなかったから、佐助はそっと隣に腰を下ろす 「どうしたのさ。」 吃驚した。 佐助様が来た事にも驚いたけれど、私を気にかけてくださることが嬉しかった。 でも、この後の悪夢が悲しくて素直に喜べなかった 「・・・少しだけ。悲しいことがあったんですよ。」 「本当に?」 「ええ。」 絶対に言えない。 私が嫁ぐことになったのが信玄様のライバル、敵の下だなんて。 そして菊瀬睦正は・・・ 以前の戦で私の村を巻き込み、父と母を殺した張本人だなんて それが言えたらどれだけ楽だろう。 どれだけ・・・悲しまなくていいんだろう。 「あ、佐助様には悪い事をしてしまいましたね。お団子、今日休んじゃいましたから・・・」 「別にいいよ。ねぇ、本当に何も無い?」 佐助はの肩を掴み自分の方へ向かせ、目を合わせる その目は凄く真剣だった。 「・・・・何も無いですよ?ほら、幸村様が甘味を待っておられますよ!もそろそろ帰らなければいけないので!」 「わかったよ」 笑顔を浮かべたに佐助は折れ、上田城へ帰ることにした。 佐助が立ち上がれば、も立ち上がり手を振った。 は"また明日会いましょう"といつものように振ったので、つい佐助も大丈夫だろうと思って歩き出した。 その背を見て、はまた一滴、涙を零した 「今日、あなたに会えてよかった・・・さようなら・・・佐助様。」 これでもう此処に残すものは無いはず。 あるとすれば・・・・一つの恋心でしょう (甘い華が四輪...)