*逃げられない悪夢* 私の団子を褒めた佐助様は毎日、買いに来てくださっていて凄く幸せな日々でした。 もちろん今も幸せなのですが、何故か今日は胸騒ぎがするんです。 「・・・・・・ゃん・・・・・・ちゃん?」 「え?あ、す、すいません。今日もお団子でいいですか?」 「うん。で、どうかしたの?ボーっとしてたみたいだけど。」 「いいえ・・・ちょっと何か胸騒ぎがしてるんですよ。凄く心配で・・・」 「そうなんだ。俺様でよければ相談のるよ?」 「ありがとうございます。でも大丈夫ですよ。」 実際、大丈夫じゃない気がする。 だって、いつもなら佐助様が入ってこられれば気づくのに、今日は声をかけられても直ぐには気づけなかった。 しっかりしなきゃ・・・ でもなんだろう、この・・・気持ち・・・ 由乃さんが居ないだけの不安だけじゃない。 確実に何か良くない事が待っている感じがする。 そう思いつつも仕事は仕事なので団子を包み佐助に渡し、勘定を貰った。 「ありがとうございました!」 今、できるのは最大の笑顔でお客様を迎えること。 それが私の笑顔の元となる。 それでも気持ちは晴れることなく一日の終わりを迎えてしまった。 「由乃さん・・・遅いなぁ・・・」 由乃は店を閉める刻にも帰ってこず、もう太陽は沈みまわりは闇に包まれているというのに、だ。 は溜息をついて、明日の準備に取り掛かった。 すぐに帰ってくるだろうと思い、気にしていなかったが準備を終えても帰ってきては居ない。 既に真夜中である。 心配になり、眠らずに待っていると後一刻もすれば夜が明ける頃、由乃は帰ってきた。 「由乃さん!!」 「?!起きて待ってたのかい?」 「だ、だって由乃さんがあまりにも遅かったから・・・」 「すまないねぇ」 由乃は苦笑しての頭を撫でる。 はくすぐったそうにしたが、抵抗はしなかった。 何より、由乃が大好きだからだ。 「さぁさぁ、。起きたら話があるんだから今は寝ようか。後、一刻ほどしかないけれどね。」 「はい。おやすみなさい。」 夜が明けて、小鳥が鳴き始めるころは目を覚ました。 そこまで寝ていないからか、まだ睡魔が襲ってきているが、話があると言われたため体を起こし着替えた。 顔を洗いにいけば由乃が起きていて、朝餉の準備をしている。 「由乃さんおはようございます。」 「おはよう。顔を洗ったなら並べるのを手伝っとくれ?」 「はい!」 由乃が作った味噌汁やおひたしを並べて座りお茶をいれる。 「じゃあ頂こうか。」 「いただいきます。」 食べているとき、由乃はいつもとは違い少し悲しそうな顔をしていたのには気づいたが聞けなかった。 雰囲気が聞いていけない。と言っていたから。 ・・・違う。案外知りたくないからかもしれない。 「ごちそうさま」 「、後であたしの部屋においで。話さなきゃいけないことだからね・・・」 「?じゃあ、片付けたら行きます。」 は食器を重ね、台所へと運ぶ。 あまりゆっくりしていると店で働く人が来てしまうから早めに終わらせなければいけない。 少しだけ急いで食器を洗い、水気を切り棚へと戻した。 廊下を走ると怒られてしまうので(当たり前なのですが。)少し早足で由乃の部屋へと向かった。 「由乃さん?」 「入っといで。」 「失礼します。」 部屋に入るのは久しぶりだ。 普段は、部屋の外で話すし、何か用があれば由乃が出向いていた。 久しぶりなのと、異様に真剣な顔をしている由乃のこともあり自身も堅くなる 「気を抜きなや。ただし・・・今からあたしが言うのは・・・酷く残酷な事だから・・・。ごめんね」 どうしてそんな事言うのだろう。 残酷ということは、店を辞めろとかその類のことなのかな? 「・・・とやかく理由をつけるつもりも無い。  あんたに嫁いでほしいんだ。・・・拒否はできへん。」 「!!ど、どうして?お相手はどちら様です?」 驚きを隠せなかった。 女子に生まれた以上、いつかは嫁ぐことになろうと分かっていた。 しかし、相手も分からず拒否権もないのは悲しいことだ。 「菊瀬・・・菊瀬睦正様よ。」 「き・・・くせ・・・?」 聞き覚えのある名だ。 悪い意味で覚えている名前を出され、自然に拳を強く握った ・・・・む・・・つま・・・さ・・・ 「・・・」 「本当にごめんなさい・・・あたしが力無いばかりに・・・またあんたを救えない・・・!」 由乃は泣きながら頭を下げている。 どうして由乃さんが謝るの? しょうがないんだよ。この時代に生まれたからありえる話だもの 「由乃さん。顔上げてください。」 ただ、もう私には悪夢から逃げる術は無いらしいです。 残った選択肢は"その話を受ける"だけ。 「この世に生まれたんです。仕方ありませんよ。そのお話受けます・・・由乃さん、私のためにありがとう」 「!あんた・・・分かってるのかい?!」 「だって、由乃さんのこの店がかかってるんでしょ?」 「!!」 「知ってるよ。由乃さんはこのお店が大好きなことも。 夫の喜一さんに・・・店を守るって約束したことも。」 「・・・・ごめんなさい・・・」 「由乃さん!私が死ぬわけじゃないんですから大丈夫ですよ!ほら、涙拭いてください!」 は由乃に布を渡して立ち上がった。 「じゃあ・・・我が侭言ってもいいですか?」 「あぁ、何でも言っておくれ」 「今日、お休みください。出かけたい場所があるんです。」 「行っておいで。そんなことしか出来ないけど・・・」 「ありがとう。」 きっと昨日の胸騒ぎは警告音。 佐助様に会えなくなるよっていう心からの悲鳴だったんだろう。 (甘い華が三輪...)