「では、先に。」 「ええ、くれぐれも相手を煽らないよう注意してください。」 ひらりと馬に乗り、副将と共に城壁をくぐった。 五丈原で繰り広げられるだろう戦いは、いままでとは比べれない程に、 危険と兵力の差を突きつけられるだろう。 曹操が消え、曹丕変わった魏といえ、さほど揺るぎはない。 元々の素質なのか、若き王として堂々と、父同様に、 否、若い分の勢い持って挑むだろう。 「・・・少々厄介だな。露苞、お前はどう読む。」 「そこまで陣を敷くのには変わりないと思いますが、」 「・・・が?」 「長期戦となると兵糧庫にするための場所は、此方に少ない。」 そう、できる場所はあるが、分散させては難しい。 「その点は、月英殿に相談してみよう。」 彼女もあの人と同じで、才知溢れる人だから。 嗚呼、なんて釣り合いの取れた二人だろう。 知の底を知らず、思わぬことを言い、不可能を可能にする人たち。 自分は武しか頼るものは無く、 最低限の兵法と文字の読み書きが可能なくらい。 つきりと痛む胸を無視して、戦場に化す場所を見下ろす。 貴方の駒として、限界に挑もうと思う。 最後の戦いとする、ここの場所で。 「露苞。私は、最前線に軍を置きたいと思っている。」 ふと零した危険な言葉に、一度は言葉を詰まらせた自隊の副将だったが、 「今更でしょう。貴女はいつでも丞相を想っておられる。」 本当は優しい丞相が、最前線に置く隊に悩んでいると言ったのも貴女ですよ。 だから、苦しまないように自分から言うのでしょうに。 そう苦笑されて言われてしまった。 「・・・確かに、ね。」 あの人が何でもないように、最前線に置くと言うとき、 本当は眉間に皺が余分によるのだって、本当は置きたくないからと。 しかし置かねばならないから、置く。 自分が行けない分、自分が恨まれ苦しみを背負えばいい。 そんな考えだと、知っているからこそ、最前線を希望する。 「一度、他の皆にも聞かなくちゃね。」 「では戻ったらすぐにでも。」 戦場の視察を終え、日も暮れてきたことだし休もうと、 木に背を預け座り込む。 「あの星が、この戦で幾つも流れるんだろうな。」 「人には自分の星があるんでしたっけ。天文は知りませんが・・・」 「そう、人が死ぬときは星が流れ・・・・・・・・・・え?」 説明の言葉を切る愁枳を不思議そうに、露苞は見る。 「様?」 「うそ、だ。間違いでしょう・・・?!何故無いの!!」 慌てて立ち上がり目を凝らしてみるものの、それは無い。 ある筈のものが、その在るべき場所に無いのだ。 見つけられない訳がないはずなのに、何故? 「様、あまり離れては・・・!」 露苞が腕を取り、止める。 「露苞放して!あれは、私の生きるための・・・!」 「落ち着いてください!何が無いのです!!」 ゆっくり落ち着かせてくれる露苞に礼を言い、座り込む。 「・・・それで、何が無かったんです?」 「星、が。・・・・・・・孔明の、星が・・・無い。」 呆然と星空を見て言う愁枳に習い露苞も空を見たが、結局分からないと顔を戻した。 「様。我々が出てくるときは丞相は生きておられましたでしょう。」 だから、今から戻り朝一番に確認致しましょう。 にっこり微笑む露苞に、余分な力を抜いた。 良い副将を持ったなぁと今さら実感した。 「ごめん、帰ろう。」 「はい。」 夜通し走り、城につく頃には馬が疲れきっていた。 その馬を乗り捨てる用に、門に居た兵に渡し、急いで諸葛亮の執務室に向かう。 目的の人は、執務室近くの廊下に居た。 「孔明!」 「・・・?そんなに切羽詰ってどうしたのです。五丈原に何か?」 「・・・部屋で話したい。聞かれたくないの。」 「分かりました。どうぞ、こちらに。」 執務室に入ると、茶の用意をさせ人払いをした。 「それで?貴女が字で呼ぶほど大変なこととは?」 本人は、生きていた。 それでは、天命が僅かということか。 それを、知っているのか。 「・・・孔明は星を見た?」 見ていたなら、気付くだろう。 数日の間の出来事に。 「・・・・・・貴女も、見たのですね。」 「そうです。私の星が流れました。」 ************************************************************ ヒロイン、余裕無くなると口調が公から私になる← 女の子になるから、普段は気をつけてるんだよ。とw あと、露苞副将さん。架空の人です。 (09.06.07)