蜀は仁の人を失っていて、 確実に勢いは減ったと思う。 例外にならず、私自身も、劉備様が居なくなって、 勢いが弱まってしまった人だ。 目指したのは、劉備様が笑う仁の世だったから。 けれど、それで乱世が終わるわけもなくて、戦が続いていた。 「今度の北伐で、魏を討ちます。場所は五丈原。」 諸葛亮が言い放った言葉は、将に衝撃を与えた。 劉備が亡くなって、戦を終えて間もないのにも関わらず、 戦をするから、準備をしましょう。だなんて言うからだ。 「何を考えてらっしゃるのですか!戦を終えたばかり、兵も疲れております!」 「そうですぞ!殿が亡くなられて、気がおかしくなりましたか!」 批判の声が上がる中で、諸葛亮は静かに聞いていた。 主な将も、そうだった。 騒ぐのは文官達のみ。 「・・・軍師、何か生き急ぐ理由でも?」 「何故?」 「いいえ、兵の徴兵も行わぬうちにの提案でしたから。」 「そうですか。確かに急ぐ意味もあります。 我らが相手をしようとしているのは、魏。 のんびりしていたら、相手も十分準備ができてしまう。 ですが、今なら貴女が思ったように急いでいる。無謀な戦を持ちかけたと、 油断する者も居ますから。」 その言葉に、ほとんどが納得したのか、 もしくは言葉を失くしたのか、声は上がらなくなった。 「この北伐に異議のある者は。」 異議は無く、軍議は終わりを迎えた。 しかし此度の軍議で決定した事項は、蜀をさらなる危険になることでもあるため、 終わり解散になっても近い者との批判が聞くことができた。 こんな批判を聞いている意味は私には、無い。 できることをするだけ。貴方の望みに答えるように。 まず出来るのは、自隊の序列を考え直しつつ、武を磨くこと。 決めれば、ここに座っている意味も無く、部屋を退出するために席を立った。 「軍師!急ぐからには勝利をもぎ取りましょう。我らの武で、貴方の知で。」 扉を出る前に、部屋の中へ向き直り、合掌した。 「殿!」 「張翼殿ではありませんか。どうされました?」 軍議後、廊下を歩いていたら声をかけられた。 先ほど批判していた一人に居たなと思い出しつつ、問題は避けたいと思う。 「愁枳殿は、なぜそこまで不安にならんのだ。」 あまりにも堂々と、まるで他人事のようにも見えたと、いう。 それは簡単なこと。 「私は軍師の知を、我らの武を信じているから。 亡き劉備殿の願った夢を叶えたいと思うから、それでは理由になりませんか?」 「・・・いや、納得した。」 互いに努力しようと、笑いまた歩を進めた。 この時は、信じていた。 蜀の未来は幸せであると。 貴方が羽扇を振るい、姜維が走り回る。 そして月英殿は貴方の傍に立ち、私はそれを遠くから眺めるのだろうと。 信じて隊を強化することに専念した。 「孔明様。」 「月英。どうしました?」 軍議室で、皆が出て行った後も残っていた私に月英が声をかける。 そっと横に並び、映す視界を共にした。 「・・・あまり急ぎすぎないでくださいね。まだ、孔明様には時がありますでしょう・・・?」 私はいつでも、孔明様を想っていますわ。と残し部屋を後にした。 気付かれているのだろうか。私が病だということを。 いや、知っていたのだろう・・・薬にも通ずる妻だからこそ。 「・・・いいえ。月英、貴女だけではありませんでしたね・・・」 そう、も何か気付いてるのかもしれない。"急ぐ"と言わず"生き急ぐ"というのだから。 羽扇を北に向け、振るう。 「せめて・・・彼の国を共にしましょ・・・・・・・・っ!!」 ああ、まただ・・・視界が歪む。 意識を飛ばしてはいけないと自身を叱咤するものの逆らえず、床に崩れ込む。 「・・・・何処に・・・・・・・・・・」 伸ばした手は何も掴むことはなく、意識を手放した。 その夜、星が一つ一際強く煌めいていたのを知る者は居なかった。 居たとしても、意味など知らなかっただろう。 *************************************************************** 気づく人多いだろうけど、 1話目に孔明死亡フラグ← 張翼さんは実在するんだけど、結構誰でもいいよ。 (09.06.07)